<有働アナと井ノ原快彦を信じない?>NHK「あさイチ」でなぜ「ありきたりな中継リポート」が起きたのか?
メディアゴン / 2015年10月4日 12時0分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
「娯楽番組の中継リポーターはどうあるべきなのか?」
それを考えるとき大変適切な素材があったので記す。9月28日のNHK「あさイチ」でのことである。
まず大前提を頭に思い描いて欲しい。
「テレビはそこで何かが起こっているから見るのではなく、何かが起こりそうだから見るのである」
この大前提には反対意見もあるだろうから、大前提に賛成できない人は、この先を読むのは時間の無駄かもしれない。
さて本稿で論ずる「あさイチ」である。「ながら視聴」をする朝の情報番組なので、それほどちゃんと見ていたわけではない。内容の細かい点は正確ではないことをご了承いただきたい。
番組では、NHK地方局の男性アナウンサーが北海道だったと思うが、特産の花豆、大粒の白い豆、のリポートをしていた。この豆からはいろいろな加工品ができるそうだ。
「これは豆ゼリーで、こちらは、白いお汁粉で、こちらはコロッケで・・・」
と言うような紹介をして、
「では、そのうちゼリーを食べてみます」
と言った。そうしたら、スタジオから、異口同音に抗議の声が上がった。
「全部食べてみてよ。全部食べて味を教えてよ」
というのである。何気なく見ていた筆者もそう思ったということは、これは「視聴者の代弁」をスタジオがしてくれたということだ。たいへん適切な反応であると言える。
スタジオにいるのは有働由美子アナ、井ノ原快彦、青木さやか、坂下千里子、山崎マリ、柳澤秀夫解説委員。実にバランスの取れた、見ていて嫌みがない人選だ。
有働アナ、井ノ原の2人はスタジオを仕切りの百戦錬磨。中継リポーターがどうとち狂っても何とかしてくれる。だから、そう慌てることはないのだが、リポーターは予定になかったことを言われて焦っているのが分かる。それで、スタジオの呼びかけを無視して進行した。
こうしたハプニングが起こったとき、中継リポーターのやり方は2つある。予定を無視して、スタジオにすべて従う。もうひとつはスタジオの呼びかけの方を無視して段取り通りに進行する、である。どちらでもそこには笑いに持って行ける要素が含まれている。
スタジオMCがヘボだとそうはいかないが、有働アナ、井ノ原である。何なら青木さやかもいる。こういう時こそ、中継リポーターはスタジオを信じてやるべきだ。
でも、今回の中継リポーターはそのどちらでもない中途半端をやってしまった。それは、演出がされていないからである。中継リポーターはまだ新人のようだったし、中継先のディレクターはきちんと彼に演出意図を伝えなければいけない。
大概、ディレクターは演出というものを勘違いしていて、何を紹介しろとか、誰に話を聞けとか、やることの指示しかしない。それは段取りであって、演出ではない。
演出とは、そこにいる中継リポーターに、先を読んで、立場立ち位置を指示することなのである。この場合の立場の指示のしかた、つまり「演出には2つしかない」ということが、ここまで読んでくれた人ならすぐ分かるだろう。
A「君の立場は、スタジオから、何を言われても、決めた通りのことを消化して、時間内に中継を終えること」
あるいは、
B「君の立場は、紹介しなければならないことを頭に入れた上で、スタジオからの呼びかけに臨機応変に対応すること」
この2つの演出のどちらかしかあり得ない。簡単である。簡単だが、どちらかひとつに決めるには演出家の胆力が必要である。失敗したら責任は演出家の方にあるからである。
どちらの演出にするかは、リポーターのキャラクターによる。筆者が演出家ならより面白くなりそうな可能性のあるAを選びたい。Aを選んだ上でこっそり東京のスタジオに連絡する。
「有働さん、井ノ原さん、リポーターは何を言われても段取り通り進行しようとしますから、なんでもきいて下さい」
破調は、笑いに繋がる。情報が分からなくなるよと反論を述べたい人は、予定調和を選択すれば良い。
筆者が担当した番組「さんまのSuperからくりTV」に、サクラダさんという、舞い上がりキャラの素人がいた。この人を中継リポーターにして、安住アナの掛け合いをする企画をつくった。サクラダさんにお願いしたのは段取りを全部詰め込んで下さい、と言うことで、安住アナに頼んだのは「突っ込んじゃダメ。質問して」ということであった。
これはまじめくさった中継リポートを馬鹿にしたかったからやった企画だが、「あさイチ」の場合は、勿論和気藹々と楽しそうなスタジオを演出するためにやるのである。
こんなエピソードがある。
明石家さんまが若い頃、中継リポーターをやった。スタジオにいるのは人気絶頂、飛ぶ鳥落とす勢いの桂三枝(現・文枝)である。さんまは、大緊張して、中継現場に立った。
張り切った、張り切ったので中継現場はいつになく盛り上がった。やりきった。これで三枝師匠に褒めてもらえる、と思って、急いでスタジオに帰り、三枝の楽屋にあいさつに行った。
「ありがとうございました」
すると三枝はこう答えたという。
「さんま、番組はスタジオと中継で、できてんねん。中継だけ盛り上がっても、しゃあないやろ」
桂三枝も正しい、だから、テレビ番組作りは難しくて面白い。
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