<視聴率歴代ワースト2位>NHK大河ドラマ「西郷どん」の残念なスタート
メディアゴン / 2018年1月11日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
1月7日にスタートしたNHK大河ドラマ「西郷どん」。原作は林真理子、脚本は中園ミホ。売れっ子コンビである。筆者は原作が未読であることをお断りしておく。
ドラマ冒頭。時は1898年(明治31年)12月18日。場面は大日本帝国憲法発布によって汚名を雪がれた上野公園に建立された西郷隆盛像(高村光雲・作。傍らの犬「ツン」後藤貞行・作)の除幕式。公開に際し、招かれた西郷夫人の糸は「宿んし(うちの主人)はこげんなお人じゃなかったこてえ」「浴衣姿で散歩なんてしなかった」との趣旨の発言をし、周囲の人に咎められたシーンからである。
この夫人のエピソードは史実とされるが、脚本は「なぜこう言ったのかは分からない」と言う意味のナレーションでまとめられている。
当然、「なぜこう言ったのかは分からない」ことを言いたくて脚本に採用したのではないだろう。これは視聴者への謎かけ、大きなフリである。今後ドラマが展開していく中で、「西郷はやはり上野の銅像が彷彿とさせる人物だった」あるいは「夫人の言うとおりだった」ことを感じさせてくれる展開になるのであろう。
はちゃめちゃコメディの場合も含め、実在の人物を描くに当たって史実は重要なものである。ただし、この史実がおもしろいとは限らないのが制作者にとっては悩みの種だ。
例えば、ドラマでは、西郷少年は薩摩藩の武士階級子弟の教育法である「郷中」の時代に、のちに生涯忠節を誓うことになる開明的な藩主・島津斉彬(渡辺謙)と会っている。これはドラマの設定であって、史実ではない。この時、斉彬は江戸におり、薩摩では出会えないのである。
ドラマ中で斉彬が「江戸には影武者を置いてきた」と発言して辻褄を合わせているが、筆者はこのような言い訳のようなセリフは不必要だと考える。まず、史実ドラマで使う嘘は大胆であるべきだと思うからである。「大嘘はついても細かい嘘はつかない」事が肝要だと思うからである。
【参考】<2018年NHK大河ドラマ>林真理子原作・中園ミホ脚色で西郷隆盛はどう描かれる?
通説では、西郷が斉彬にお目見えが叶ったのは26歳の時。藩庁に提出した西郷の意見書が斉彬の目に留まり、1854年、斉彬が江戸に出府するにあたり、西郷はその供に加えられたと言われている。
西郷は日本史上、最大の有名人のひとり。ファンも多いことからこれらの史実や説を知る人は無数にいる。エンターテインメントたるドラマはこれらの人をも納得させる大嘘をつかねばならないのだ。
エンターテインメントたるドラマを成立させるために大嘘をつくのであるから、「影武者を置いてきた」などと嘘、中途半端な言い訳をしてはならない。筆者が敬愛する歴史小説作家の吉村昭氏は「史実と書きたいことが反した時は、史実を切る」と発言しているぐらいだ。もちろん、この「史実を切る」とは「史実をねじ曲げるのではなく、史実を描かない」ということだ。
ところで、大河ドラマというのはどうして主人公の幼年時代から順に時系列で描かねばならないのだろう? それが決まりではないだろうが、その方が分かりやすいという考えがあるのだろうか。西郷の少年時代のエピソードとして大きいのは次の話だ。
他の郷中と友人が喧嘩しそうになり仲裁に入った西郷少年は、右腕を斬られ刀を握れなくなった。以降、西郷は武術を諦めることになる。そこから学問に進み薩藩の役に立とうと志す西郷を暗示する。ただ、幼年時代から始まるエンターテインメントとしては、これだけでは足りないと判断したのだろう。斉彬との対面が設けられてしまった。
時系列ではなく、例えば西郷26歳で斉彬の供としての江戸上がりする派手な大行列から描く。あとはカットバックして幼年時代や、お由籮騒動を入れていけば、西郷ほどの人物、エピソードは枚挙に暇がないはずだ。
もちろん、ドラマはまだまだ少年時代を描く序章である。登場人物紹介などもあるし、説明も多くなることもわかる。しかしながら、華々しく、おもしろくは始まらなかったと感じたのは、筆者だけではあるまい。
なお、「西郷どん」初回の平均視聴率は15.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。大河ドラマ史上、ワースト2位の数字であるという。今後に期待したい。
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