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<合掌・桂米朝、享年89>「地獄八景亡者戯」を聞いて妄想する娑婆より豊かな「地獄の興行」

メディアゴン / 2015年3月21日 0時48分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

* * *

桂米朝さんが亡くなった。享年89歳。

筆者は、東京で米朝さんを3回聞いている。国立小劇場の落語研究会。今はもうない渋谷東急デパートにあった東横ホールの東横落語会。新宿紀伊国屋ホールの紀伊國屋寄席。演目は忘却の彼方だ。

追悼のためには米朝さんの噺を聞こう。何にするか。「蛇含草」も「七度狐」も「三十石夢の通路」もみんな好きだけど、そうだ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)を聞こう。

元はカセットテープ。CDにもなっている。平成2年4月22日京都府立文化芸術会館にて収録と書いてある。1時間8分もある大ネタだ。出囃子の「都囃子」とともに、米朝さんの張りがあって華やいだ声が聞こえてくる。

サバの刺身を食べて食当たりで死んだ男が冥土への旅路で伊勢屋のご隠居と再会するところから語り始める米朝さん。全編に時事ネタを入れて喋らなければならないこの噺は「源平盛衰記」と似た構造だと思う。

鳴り物が入り猥雑な大阪の噺。でも米朝さんにかかると不思議にキレイで上品な口演になる。

地獄で閻魔大王の裁きを受けるために、次々とやってくる亡者たち。地獄は「古来ある地獄」とは様々なところで様相を変えていた。

 「戦後この方いろいろなことが急速に変わって、キレイだった三途の川の水も上流に工場が建って以来、濁ってきた」

六道の辻にある、六股にわかれた道、そのひとつに芝居街という興行街がある。歌舞伎小屋があって、劇場があって、寄席も映画館もある。娑婆の興行よりも地獄の興行は、ずうっと豊かだ。

何しろ歌舞伎「忠臣蔵」では大石内蔵助良雄が初代團十郎で、大石主税良金が二代團十郎で、浅野も吉良も一学も勘平もみんな團十郎、寄席では三遊亭円朝が「真景累ヶ淵」の一週間通し興行。なんと豪華な。

この部分の米朝さんの語りを聞いて筆者の空想は広がる。

榎本健一、二村定一、清水金太郎、伴淳三郎、渥美清、由利徹、東八郎の軽演劇。美空ひばり、越路吹雪、雪村いづみ、江利チエミの歌謡ショウ。忌野清志郎と尾崎豊のロックンロールにジョンレノンが飛び入り。森繁久彌と徳川夢声のトークショウは構成・脚本が向田邦子。志ん生と、文楽と、談志と志ん朝の4人会、小さん師匠にも入ってもらおう。膝代わりはアダチ龍光の手品。チャップリンとロイドと、キートンが共演映画の撮影現場で喧嘩をしている「俺よりおもしろい奴はこの映画に出るな」クレージーキャッツはコンサート、そこのいかりやさんがコントラバスを持って入ってきて「あれ?お呼びでない?こりゃまた失礼しました」植木「お株とっちゃ困るなあ」谷啓作のコントである。

妄想は止まらない。

今、六道の辻にある寄席では、桂米朝の名前の上に貼られた「近日来演」のビラが「本日来演」に変っていることだろう。

合掌。

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