「病院に催涙ガスが充満」 ガザだけではないパレスチナの人道危機──日本人医師が目撃した、ヨルダン川西岸地区の現実
国境なき医師団 / 2024年3月28日 11時59分
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区で暴力が急激に増加している。暴力の増加傾向は2022年から存在していたが、ガザ地区で紛争が激化した昨年10月7日以降はより顕著となっている。西岸地区では、イスラエル軍による暴力や嫌がらせ、強制的な立ち退きや医療への妨害が日常となっている。 昨年12月から1カ月間、同地区北部のジェニンで国境なき医師団(MSF)の救急医として活動した今村剛朗が、現地の状況を伝える。
救急医・今村剛朗からの報告
ヨルダン川西岸地区のジェニンにおける現状市民が暴力の被害に
ジェニンは、小さいながら普段は活気がある町です。難民キャンプが存在することもあり、頻繁にイスラエル軍の侵攻を受けています。イスラエル軍による攻撃は、難民キャンプだけでなく市街地でも行われていて、多数の死傷者が出ています。私が滞在していた宿舎の周りでも、ドローン攻撃や銃撃の音が聞こえてきました。 町に侵攻したイスラエル軍は、市民を逮捕して連行したり、ブルドーザーで道路や水道管、電線などのインフラを破壊したりしています。難民キャンプ内の医療用の倉庫に置かれた物資や、換金所の現金が略奪されたこともありました。
さらには、ジェニンの近郊に存在するイスラエル人入植地周辺での暴力行為も多く報告されていて、イスラエル兵に足を踏まれて骨折したパレスチナ人患者が救急外来に来たこともありました。
医療への攻撃──病院の敷地内への銃撃も
ジェニンでは、医療へのアクセスの妨害、および医療機関への攻撃が何度も起きていました。 イスラエル軍は、町に侵攻すると病院への道路を封鎖して救急車や市民が病院へ行くことを妨げ、また救急患者を搬送中の救急車を止めて、救急隊員の服を脱がせて調べたりもしていました。救急車が病院にたどり着けないために、病気の20歳前後の息子を自ら抱いて歩いて病院にやってきた父親がいました。自宅で具合が悪くなった患者でしたが、残念ながら、病院に着いた時には患者は既に心肺停止で、手の施しようがありませんでした。 医療機関への攻撃も実際に目撃しました。私が治療に携わった患者の中には、救急車で搬送されている最中にイスラエル軍に銃撃されて、顔に怪我をした高齢の女性がいました。患者は入院しましたが、その数日後に亡くなりました。また、私が救急外来で働いていた時に、病院の敷地内にいた17歳の少年がイスラエル軍に銃撃されました。心臓を撃ち抜かれていて即死でした。
催涙ガスによる被害も頻繁に経験しました。病院を封鎖しているイスラエル軍に抗議するパレスチナ人に対して、イスラエル軍はしばしば催涙弾を打ち込みます。その結果、病院の救急外来に催涙ガスが充満して診療が継続できないことが1日に何回もありました。
ヨルダン川西岸地区におけるMSFの活動病院の救急部門を支援
MSFは、ヨルダン川西岸地区北部では、ジェニンとトゥルカレムという町で活動しています。パレスチナ難民キャンプの隣にある病院の救急部門を支援していて、医療従事者にトレーニングを提供したり、一緒に患者を診療したりしています。
また、難民キャンプ内で働くボランティアの救急隊員にもトレーニングや医療物資を提供し、イスラエル軍の町への侵攻に伴う紛争で負傷した患者の状態を安定化させ、病院での治療につなぐことができるように支援しています。
心のケアの活動も強化していて、パレスチナ難民キャンプに住む人びとや、ガザで紛争が激化した10月7日以降にヨルダン川西岸地区に取り残されたガザ出身の労働者、医療従事者などの支援を行っています。
救える命を守り、現地で目撃したことを発信する
厳しい状況下でも救える命を守ること、そして、現場で目撃したことを世界に発信することがMSFの活動の意義だと考えます。 イスラエルが実効支配する占領地域であるヨルダン川西岸地区では、さまざまな制限や安全上の障害があり、医療援助活動を行うこと自体が厳しい状況にあります。そのような中でもMSFは、スタッフの安全を確保しながら、現地の医療従事者や医療機関を支援することで、医療を継続し、救える命を守ろうとしています。 また、MSFは独立・中立・公平な立場で医療を提供するNGOです。ヨルダン川西岸においても、イスラエルとパレスチナ、どちらかの側に立つのではなく、あくまで医療を必要としている人のために活動しています。現場で目撃した非人道的な事例を、独立・中立・公平な立場で世界に発信することも、MSFが担う重要な活動の一つです。
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