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「パンデミック条約」に国境なき医師団が求める5つのポイント──将来のパンデミックの予防、備え、対応のために

国境なき医師団 / 2024年4月16日 12時0分

新型コロナウイルス感染症の患者のケアにあたるスタッフ(南アフリカ)=2021年2月 © MSF/Chris Allan

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が世界にもたらした影響を踏まえ、世界保健機関(WHO)では、日本を含む加盟各国が、将来のパンデミックの予防、備え、対応をより良くするための新たな法的文書(いわゆる「パンデミック条約」)の作成を進めている。2023年2月以来、各国政府は条約案の文言について交渉を続けていて、2024年5月の世界保健総会での採択を目指している。

国境なき医師団(MSF)は、危機に瀕した人びとへの医療援助として、過去50年にわたり多くの感染症の流行に対応してきた。この経験から、タイムリーに、公平かつ購入しやすい価格で医薬品やワクチン、診断検査などの医療用品を入手できるか否かが、健康危機への対応に重要であることが明らかになっている。


MSFはこれまでの経験から、各国政府は以下の措置を講じる必要があると考える。

1. 医薬品など医療用品の国際備蓄と分配において、世界全体での公平な利用と医療・人道ニーズを優先する

医療用品を備蓄してこれを管理することは、健康危機への備えと対応に欠かせない戦略である。この備蓄は、緊急事態に対する事前の備えとして、各国で確立できる。また、緊急事態が発生した際、迅速に活動を開始し、必要な国々に届けられるよう、流行対応のために国際的なレベルで確立・管理することもできる。国際備蓄は、世界的な供給不足が予想される場合は特に重要であり、また公平な利用の徹底に効果的であることが過去の疾病流行時にも証明されている。

しかし、国内用備蓄に力を入れすぎれば、国際的なニーズと競合することもある。エボラウイルス病治療薬の備蓄がその一例だ。現在、エボラの治療薬として承認されているのは2種類だが、世界全体の供給量のほぼすべてが、米国の国家バイオセキュリティ備蓄庫で使われることのないまま保管されている。その結果、エボラが流行する国々の人びとが最も影響を受けるにもかかわらず、治療を受けるためにはその都度、薬の寄贈に頼るしかない。現時点で、エボラの新たな流行が起きる可能性に備えた国際備蓄・分配メカニズムは存在していない。

MSFは、紛争地など人道危機下に暮らす人びとが、新型コロナ用医療用品の利用にあたって取り残される姿を繰り返し目にしてきた。新型コロナのパンデミックの最中、人道危機下にある人びとにワクチンを提供するための世界的な仕組みが作られたが、MSFがそれを使おうとしたところ、あまりに時間がかかり、複雑で、不透明で、結局のところ目的に合っていないことが判明した。

世界のどこでも公平に利用できる国際備蓄用の供給がなされるよう、また、各国の国内用備蓄が世界的な利用ニーズと競合する事態を防ぐよう、この条約では明確なルールを規定する必要がある。備蓄と分配の優先順序づけと意思決定は、人道と公衆衛生ニーズを中心にするものとすべきだ。

2. 健康に生きる権利を守り、誰もが医薬品を利用できるようにするため、知的財産の課題に取り組む

HIV、結核、エボラウイルス病、新型コロナなどの感染症対応からMSFが得た経験則は、知的財産権に支えられた市場独占は、命を救う医療用品のタイムリーかつ公平な利用を妨げ得るということである。大手製薬企業は、競合他社を排除し、高値をつけるための手段として知財権を利用することが多いからだ。

国際貿易法は、政府が知財権の壁を克服できるようにするためのいくつかの柔軟性を有しているが、すべての国がこれらの柔軟性を国内法に組み込んでいるわけではない。また、各国の貿易・投資交渉によりこれらの柔軟性の利用が妨げられてしまうことも多い。

この条約は、健康危機に備え、対応するために、医療用品の利用を広げるあらゆる法的柔軟性を取り入れ、それを利用する政府の責任を明記する必要がある。貿易交渉において、知財権をめぐるより厳格な規則を導入しようとすることも阻止しなければならない。また、各国政府は、緊急時における医療用品の世界的な生産と供給の急速な増加を支援するための追加措置として、知財権に関する期限付き免除に合意するべきだ。

3. 公的支援による恩恵を受ける医療用品が、必要な人びとに行き渡るよう徹底する

政府などによる公的支援は、バイオメディカル開発に不可欠である。研究開発では、助成金や補助金、税控除など、公的支援から多大な貢献を受けている。しかし、公的支援を受けて作られた医療用品の利用は制限されることが多い。知的財産権の主張や、価格設定、生産、供給の決定権を民間に持たせているためだ。その背景には、研究開発への公的投資が、世界的な利用を徹底するための明確な条件を付けていないことがある。

ベダキリンは、世界最大規模の感染症、結核の治療薬として 半世紀ぶりに登場した新薬である。推計によると、ベダキリンの開発に対する公的支援は、その特許を取得したジョンソン・エンド・ジョンソン社が出した費用の5倍であった。しかし結果的に、特に低・中所得国において、この薬を必要とする人びとがこの薬を入手しやすくすることはできなかった。2012年の発売以来10年間、同社はこの薬を手の届かない価格に設定してきたからだ。

医療用品の研究開発には、資金面で貢献する国だけでなく、最終的に製品が開発され承認されるにあたって不可欠なデータを提供する臨床試験が行われたり参加したりする途上国も、多大な貢献をしていることが多い。だが、途上国の貢献はまったく認められていない。臨床試験後の利益を、臨床試験に参加した地域社会や医療ニーズのある途上国と確実に共有するための国際的な医学・倫理ガイドラインは存在しているのだが、その施行は不充分である。

従って、パンデミック条約では、公的資金の恩恵を受けて開発された医療用品の利用をすべての人を対象に徹底するという前提条件を規定する必要がある。前述の条件には、開発された製品に購入しやすく透明性のある価格設定を行うこと、十分な供給量を確保し潜在的な供給不足を克服するために世界のさまざまな地域で複数の製薬会社にライセンスを供与すること、製品を国際備蓄に利用できるようにすること、企業が価格、コスト、知財権の状況、供給可能量について透明性をもって明らかにすることなども挙げられる。

また、臨床試験後の最終製品への利用、特に途上国の地域社会による利用を確保するため、国際的な医療倫理ガイドラインを取り入れることを規定する合意も必要である。

4. 守秘義務と企業秘密を制限することで、透明性、説明責任、情報への権利を守る

情報へのアクセスは、信頼性が高い医療用品を購入しやすい価格でタイムリーに入手するための重要な要素だ。だが、パンデミックの最中であるかないかにかかわらず、情報を得ることは往々にして困難であることをMSFは経験上、学んできた。

例えば、製薬企業は、医薬品などの医療用品の価格が高いのは研究開発にかかるコストが高いからだと主張する一方で、これらのコストを開示しないことが多い。このため、研究開発コストが製品価格に実際にどの程度影響しているかは見積もりづらく、より公正な価格を求める交渉を難しくしている。

公的支援の協定や医療用品の購入契約において、価格設定や知的財産権とライセンシング、生産と供給についてどのように規定されているかという情報も、人びとのアクセスが確保されるかどうかを把握し、また製薬企業や政府に説明責任を果たさせるために不可欠なものだが、企業が守秘義務を主張して、入手できないことが多い。

パンデミック条約は透明性を重要な原則と認識してはいるが、さらに踏み込んで、各国政府に対し、特に多くの人が利用できることが必要な医療用品の調達・購入条約における情報開示の拡大と、守秘義務条項の使用禁止を義務付けるべきである。少なくとも、世界保健総会決議72.8で公約された透明性の確保は、必須要件として導入されるべきだ。

5. 研究開発の成果がすべての貢献者に公平に配分されるよう、国際的な利用・利益配分メカニズムを導入する

病原体などの生物学的物質をタイムリーに共有することは、国際保健協力に欠かせない要素であり、世界的な健康危機への備えと対応において重要な役割を果たしている。病原体や関連する配列データを科学者や研究所と共有することで、診断キット、薬、ワクチンなどの医療用品の開発が可能になる。
しかし、新型コロナのパンデミックが示したように、製品開発のために病原体や関連データを利用する製薬企業が、その製品を世界レベルで公平に利用できるよう、適切に共有することを保証する世界的なメカニズムは存在しないのが現状である。

利用と利益配分(ABS)の原則があれば、遺伝資源の利用によって生じる利益の配分義務を事業主体に課すことによって、この不公正を是正することができる。これは1992年の生物多様性条約に端を発し、パンデミックインフルエンザ事前対策枠組み(PIP)を通じてグローバルヘルス分野で具体化された。

パンデミック条約をめぐる交渉では、国際的なABSメカニズムが提案されている。医療用品への公平・公正なアクセスを実現するには、生産・供給量の一部を世界全体の備蓄や公正な分配メカニズムに提供すること、資源が乏しい国・地域をはじめとする他のメーカーに技術・ノウハウを移転することなどを、具体的な利益配分の要件とする必要がある。

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