東大がシリコン膜からの熱放射の倍増に成功、半導体の排熱問題の解決へ
マイナビニュース / 2024年5月10日 17時33分
東京大学(東大)は5月9日、プランクの熱放射則で決まるとされていた熱放射を、シリコン膜の表面をわずかに酸化させ、「表面フォノンポラリトン」の効果を加えることにより、熱放射を倍増させることに成功したことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科の立川冴子大学院生/日本学術振興会特別研究員(現・産業技術総合研究所 計量標準総合センター 研究員)、同大 生産技術研究所(生研)のホセ・オルドネス国際研究員(フランス国立科学研究センター(CNRS) 研究者兼任)、同・ロラン・ジャラベール国際研究員(CNRS 研究エンジニア兼任)、同・セバスチャン・ヴォルツ国際研究員(CNRS 研究ディレクター兼任)、同・野村政宏教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
半導体の微細化と高集積化に伴い、性能や信頼性、寿命などに大きく影響する熱管理の重要性が増している。熱の伝わり方には、伝導、対流、放射の3種類があるが、誘電体薄膜においては、4つ目の伝わり方として表面フォノンポラリトンが活躍することが知られている。表面フォノンポラリトンとは、誘電体の界面における格子振動が電磁波により励起され、その結果、今度は励起された格子振動により電磁波が増幅される現象のことだ。
誘電体の単一薄膜においては、表面フォノンポラリトンが薄膜の面内方向に熱を放射するため、放射波長より薄い薄膜からの面内方向の輻射熱は、「黒体輻射限界」を上回ることが知られている。しかし、単一薄膜は、形状の維持が困難であり、より扱いやすい丈夫な支持構造を有する構造での実現が望まれていた。そこで研究チームは今回、表面フォノンポラリトンを利用して、シリコンから空間への熱放射を増強する目的で、実験を行うことにしたとする。
実験ではまず、厚さ10μmのシリコン(非誘電体)の両面を30nmだけ酸化させ、表面フォノンポラリトンを発生させられる3層構造の誘電体が形成された。そして、その多層膜の端からの熱放射の強さを測定するため、2つの構造を10.7μmのギャップを開けて対向する構造が作製された。続いて、2つの3層構造上にそれぞれ金属線を形成し、ジュール熱により加熱されるヒーターと、電気抵抗の温度依存性を利用した温度センサが作製された。一方の3層構造のヒーターに電流を流して加熱し、温度を上昇させると、輻射熱輸送によりもう一方の構造の温度が上昇するので、その温度上昇を温度センサで測定することで、2つの3層構造間における輻射熱輸送(熱コンダクタンス)が評価された。
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