『おっさんずラブ』『ビリオン×スクール』瑠東東一郎監督、元カンテレ重松圭一氏とのタッグで作品に注ぐ「ありったけの情熱」
マイナビニュース / 2024年7月24日 6時0分
だが、そんな幸福な現場はそうそうない。筆者が各所で聞く話だが、例えば芸能事務所の誰かが「こうしたほうがいい」というのは通るが、いち監督の意見は説得、却下されたりする。
そこには明らかなパワーバランスが存在し、クリエイターのパワーは弱く、いわば上層部の“大人の事情”で現場が回されている。半ば“仕方ない”という諦めの声が多くの現場でささやかれている。ドラマだけではなく、映画もアニメも、やれ予算が、やれ時間が……と、クリエイティブとは関係ない場所で回されてしまっているとの愚痴を聞いてきた。
○香港で感じた日本映像界の“遺伝子”
ただ、昔からそうだったわけではない。瑠東監督の話を聞きながら筆者もほぼ確信に至ったことがある。
「『おっさんずラブ』が幸福だったことのもう一つに、劇場版を香港で撮影したのですが、現地のスタッフが非常に優秀だったのです。例えば急に思い浮かんだアイデアをこうしたいと告げると、やはり段取りがありますので“難しい、無理です”と言われても仕方がない。これは当然です。ところが当時の香港の現地スタッフは“じゃあどうするか考えましょう”と前向きになってくれた。これには驚きました。そして聞けば、そのNOと言わず前向きにアイデアを出していくのは、過去に日本の映画業界の方から学んだというのです」
かつて筆者は国内外で活躍するアクション監督や殺陣師・スタントコーディネーターたちの団体「ジャパンアクションギルド」の理事でスタントマンの多加野詩子氏(映画『ビー・バップ・ハイスクール』、ドラマ『あぶない刑事』など)にこんな話を聞いたことがある。昭和30年代、GHQによるチャンバラ映画禁止が解かれ、日本のアクション映画は隆盛を極めた。それに目をつけたのが香港のゴールデン・ハーベスト。同社は日活のスタッフをスカウトし、ブルース・リー映画などを制作。香港映画の基礎を作った、と。
決して今の日本のエンタメ界に優れたところがないと言っているのではない。ただ史実として、かつての日本映画界はその“熱量”で燃えていて、それが香港では今も受け継がれている。香港で可能であるなら、現代日本でもできるはず。その遺伝子は残っているはず――そんな期待を瑠東監督の言葉から感じた。
●クリエイターの地位が上がりづらい原因とは
現在も優れたクリエイターは日本に数多く存在するが、前述の課題が生まれた理由を、瑠東監督が所属した映像制作集団「g」の設立者・重松圭一氏(『僕の生きる道』『SMAP×SMAP』など)はこう分析する。
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