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写植機誕生物語 〈石井茂吉と森澤信夫〉 第51回 【茂吉と信夫】文字と文字盤(7) 「一寸ノ巾」方式

マイナビニュース / 2024年10月8日 12時0分

「一寸の巾、鍋蓋 (なべぶた) 進入は匣 (はこ) がまえ、刀抜く人、雁 (かり) は山さと、大小の女子、口言い心に手、弓と片ほこ、四つ目糸草、虫の羽 竹の里、シンシャキュウモン、犬の足 馬の骨、日月火水木金土」

さらに、各基本見出しに付随する数個の小見出しを設けており、その見出しのなかに収める文字を、扁やつくりなど、独自の字形で分類していた。[注7] これによって、漢字が読めなくても、見た目のかたちで採字ができるというのが「一寸ノ巾」方式だった。

種田は、「『一寸ノ巾』式文字排列文選作業」と題して、三菱長崎造船所印刷工場の活版印刷場で五号活字約6,000種を「一寸ノ巾」式配列で活字棚に並べ、文選 (原稿に従って棚から活字を拾うこと) の経験がない17、8歳の女子の文選成績の記録をとった結果を『印刷雑誌』昭和3年5月号 (1928) に発表している。結果、77日、つまり約2カ月半の練習で1分間の文選率が29.2字に及んだ。参考までに、彼女が練習21日目に1分間で文選できたのは10.3字だった。工場長の藤井富蔵は後日、種田への手紙につぎのように綴ったという。

「私どもは多年、従来の (活字棚の部首別配列) 式をたいへん不便と感じていた。ことに、はじめて文選にとりくむ人に、それがどの部首に属する文字なのかを教えることがとても大変だった。しかし、種田氏の『一寸ノ巾』式を導入したことで、まったく経験のない女子もすぐに文選が身についたのは、まったく字義字源を使用せず、ただ文字の形態によって目的の字をただちに探し出す方法を考案してくださったから」「『一寸ノ巾』式によれば、小学校を完全に出ていなくても3カ月ぐらいで文選が身につき、6カ月も経てばほとんど一人前の文選工になれるようなしくみに配列してある」[注8]

こうした調査結果なども見ていたのだろう。茂吉は、日常で使われる機械には「一寸ノ巾」式がもっとも簡単に覚えられて採字能率の上がる配列だとかんがえ、「実用第1号機文字盤 (仮作明朝体)」(1929年) からはこの配列をとりいれた。[注9]
○割れる意見

問題となったのは、文字盤に収容する文字を何文字にするかということだった。「試作第1号機文字盤」では約3,000字をおさめていた。 [注10] 5つの印刷会社に納入予定の「実用第1号機文字盤 (仮作明朝体)」では、文字数をどうするか。茂吉と信夫、ふたりの意見は割れた。

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