写植機誕生物語 〈石井茂吉と森澤信夫〉 第51回 【茂吉と信夫】文字と文字盤(7) 「一寸ノ巾」方式
マイナビニュース / 2024年10月8日 12時0分
信夫は、「今後、漢字の数はしだいに制限されていくだろう」とかんがえた。だから「文字盤の収容文字数も、なるべくなら少ないほうがよい。そのほうが、オペレーターが文字盤を移動させる距離の積算量が少なくて済み、採字能率があがるだろう」とかんがえたのだ。対する茂吉は「なるべくなら多数の文字を収容する方針をとりたい」と言い、そのかんがえを決してゆずらなかった。[注11]
茂吉は結局、収容する文字数を5,460字と決めた。もちろん、根拠なく決める茂吉ではない。活版印刷所の活字ケースの調査や、漢字にかんする研究資料をあたった。最終的には、日下部重太郎『実用漢字の根本研究』のつぎの所説にしたがった。[注12]
〈なほ明治五年の頃文部省が、常用漢字を三千ばかりに節減しようと企てた事があり、同十九年の頃郵便報知新聞が漢字を常用のもの三千に節減した「三千字字引」があり、中村正直博士の「三千字文」などもある。蓋し、三千とは、我が国民の常用漢字のミニマム (最小限) に近いもので、六千とは、そのマキシマム (最大限) に近いものである。ミニマムは不足を生じがちであり、マキシマムは常用を充し得るものである〉[注13]
茂吉は、文字盤に収容する文字数を5,460字に決めた。そして、従来の「試作第1号機文字盤」のような1枚の大きな文字盤では扱いにくかったため、縦65mm、横105mmの小型文字盤に分割し、それを格子状につくった文字枠に収容することにした。1枚の小型文字盤には縦13字×21字の273字を収容することとし、5,460字を使用頻度の高いものから一級文字盤 1枚(273字) 、二級文字盤8枚 (2,184字) 、三級文字盤11枚 (3,003字) に分けた。そして、もっとも採字しやすい文字枠の中央に一級文字盤を置き、その上下左右に星型に他の文字盤を配置した。[注14]
こうして「一寸ノ巾」式配列をとりいれたことは写真植字機の大きな特徴となり、採字能率を大幅に向上させることにつながった。なお、考案者の種田豊馬はこの配列方法を活版印刷の現場に普及させようとしたが、明治のはじめから部首別配列で訓練されてきた活版印刷所で、棚の配列方式を刷新することは、文選工のノウハウをくつがえし現場の混乱を招くとの理由から、活版印刷所ではけっきょく普及しなかった。しかし、まったくあたらしい植字法として登場した写真植字機には、かえって根付いていったのだった。[注15]
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