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「宇宙を作る」シミュレーション天文学への招待 第1回 第3の天文学である「シミュレーション天文学」とは?

マイナビニュース / 2025年1月31日 7時1分

それでも、スパコンの性能が上がってきたため、近年は天の川銀河の棒状構造ができてきた経緯や、宇宙の大規模構造がどのようにして現在の網目構造になってきたのかなど、近似的ながら大規模なシミュレーションも行えるようになり、成果も出てきている。このように、“理論のための実験室”ともいえるのが、シミュレーション天文学なのだ。なおアテルイIIによる成果としては、以下のようなものがある。

(1)宇宙誕生から現在に至るまで宇宙の構造の進化を扱った、世界最大規模の模擬宇宙。すばる望遠鏡などを使ったダークマターサーベイ観測と比較し、この宇宙がどのような宇宙なのかを解明する研究に用いられている(2021年、千葉大学の石山智明准教授らが発表)。

(2)星同士の重力相互作用によって、大質量星が星団の中心から外縁部にはじき出される様子を再現(2022年、東京大学の藤井通子准教授らが発表)。また形成中の球状星団の中で星が次々と合体することによって、中間質量ブラックホールの種となる超大質量星が形成されることが確かめられた(2024年、同じく藤井准教授らが発表)。

(3)ブラックホールの観測の予測と検証に関しては、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)で観測されるM87銀河の中心にある超大質量ブラックホール(SMBH)の画像の予測や、観測結果と比較するためのモデルのシミュレーションが実施された(東京大学の川島朋尚特任研究員らが発表)。また、東アジアVLBIネットワーク(EAVN)などを用いた観測で捉えられたM87銀河のジェットの運動が、自転するブラックホールが引き起こす運動で説明できることなども示した(2023年、ツェイ・ユズ氏、東大の川島特任研究員らが発表)。

(4)さらに近年は、AIも活用した宇宙論研究も進められている。アテルイおよびアテルイIIで計算された約300TBの巨大なシミュレーションデータを学習した「ダークエミュレータ」が開発され、シミュレーションと変わらない精度の宇宙モデルが、ノートパソコンの数秒の計算で予測可能になっている(2020年、京都大学の西道啓博特定准教授(現・京都産業大学 准教授)らが発表)。また、観測データから暗黒物質の分布地図を作製する際に生じるノイズを軽減するため、アテルイIIによるシミュレーションデータを学習させたAIが開発され、これまではノイズに埋もれていた暗黒物質の分布地図を高精度で描くことにも成功している(2021年、統計数理研究所(統数研)の白崎正人助教らが発表)

アテルイIIの実績は、2023年度を例に挙げると、ユーザー数が234名で、そのうちおよそ1/3が大学院生だったとのこと。また稼働率は97%に上ったといい、ここまで休みなく稼働しているスパコンはなかなかないという。なお査読論文は146編(すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡に匹敵)だった。

こうした、アテルイIIの実績を受けて本格稼働を開始したアテルイIIIで目指す天文学は、より現実的(多次元、高分解能、正しい物理)な、より多くのパラメータを扱い、具体的に大規模構造の形勢、銀河の誕生と進化、恒星と惑星の起源、超新星爆発の機構などを解明していくとしている。アテルイIIIのスペックは、比較としてアテルイIIと共に第2回で詳しくお伝えする。
(波留久泉)



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