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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#25 富山発熱

NeoL / 2016年1月10日 10時0分

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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#25 富山発熱

新年、あけましておめでとうございます。
年末年始は、体調を崩された人も多いかと思います。1年分の疲れやら、年末の追い込み不摂生のつけやらで、寝込むことが多い季節。かく言う私も、北陸富山の地で発熱中で、旨い酒や肴をいただく気にもなれずに、一人ホテルのベッドにぐったりしながら、この原稿を書いている始末です。
この連載もここから三年目に入りました。つまり今まで24回もヒーリングについて考え語ったことになるのに、そんな私でも普通に体調を壊すのです。体調ばかりか気分だって落ちる時もあります。
熱発した今朝は、那覇空港に行くのをかなり本気で躊躇いましたが、えいやあと乗りました。飛行機に。でもやはり気合は長持ちせずに、すぐに萎れ、イカのようにシートでぐったりしてました。
羽田に到着すると、京急乗り場に行く途中にある卵屋さんで、いつも通り、たまごかけご飯をいただき、第二ターミナルにバス移動してからANAに乗って、富山へ向かったのでした。
羽田での接続の待ち時間は、身に堪える3時間。体温こそたいしたことがなかったけれど、実感的な辛さは、39度。その接続時間を巧みに使ってこの新月譚に果敢にも取り掛かったのだが、ぼうっとしてしまい、8枚も書いたのにボツにした。採水地北杜市のいろはすをぐびぐび飲みながらも、なんとか頑張ったが、今日はそういう日なんだね、と一人合点し、ひとまず後ほど〜とマックブックプロ13インチをパタンと閉じた。
羽田から飛び立ったANAの機体は、東京上空を何かのアトラクションのようにぐるりと旋回して見せてくれた。澄んだ空気が張り詰める冬の東京を上空から眺めると、思ったよりもずっと小さい町に東京が見えて、いつも少しだけ愛おしくなる。なぜなら、東京は私にいろいろ手取り足取り教えてくれた場所だから。東京は本当はちっさいんだよ。それを冬は教えてくれる。そこにいっぱいの人が肌や思いを寄せたり、パンプスで殴り合ったりしながら暮らしている。
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そんな東京を去って北陸に向かうこと約1時間。途中の雲が美しかったから、買ったばかりのソニーのコンデジのハイコン白黒モードとやらで20枚ばかり撮った。私は、相変わらずぬるくなったイカのようにぐったりしていたけれど、写真を撮ることだけはした。とっても美しかったから。
発熱すると、世界が美しく見えるのはなぜだろう。ぼうっとして、うっすら涙目で見るからなのだろうか。それもあるかもしれないが、きっとそれは神様の前貸しなのだろう。いつ返せばいいのか知らないが、そして勿論返さなくてもいいのだろうが、一応私は前貸しとしておいてる。
私は、信仰心もむらがありつつも持参しているので、発熱時に見せてくれた美しい世界を、平常に戻ったら何かに還元しようかと思いがちだ。幸い写真というのは、ぼうっとしていても撮れるものだから、それを共有するとする。
富山空港に到着すると、タクシーに乗った。本来バス利用が好みだが、体調を優先させた。シルバーの高級そうな個人タクシーに乗ったまでは良かったが、ホテル名を告げても運転手のおっちゃんは、はあ?という対応だった。住所を教えて欲しいと言われ、伝え始めると、カーナビの操作が怪しくて、かわりにいじってあげ、最後の「ここへ行く」ボタンを押そうとしたら、なぜか手を払われて拒否された。「場所が分かればいいんです」そうおっちゃんは言って、走り出した。機械の指示音声が煩わしいのか、ボリュームは最小になっていて、ことごとく指示される道をおっちゃんは無視した。私がイカのようにぐったりしていたのは言うまでもない。
さて、ホテルに入ると、荷物を下ろしてさっさと夕食をとって早く寝てしまおうと、駅前に向かった。たまたま見つけたお茶屋で生姜湯を買い、そこのお姉さんに教えてもらった回転寿し店へと向かった。
調子が悪い時には、沖縄のとある鍼灸院の食事制限に従って治すことにしているのだが、その制限は完全にそこでの臨床データを元にしてあり、トマトはだめでもミニトマトは良いといった具合に、鍼灸院の先生も何故かはわからないが、そういう結果があるのだから仕方がない、ということらしい。
そのOKフードは、これじゃあ食べるものは塩むすびぐらいか、と思うほど少ないのだが、自家調理した肉魚は良いとされ、刺身もその中に入っている。回転寿し行きは、一応理にかなっている。
そのリストを参考までに紹介したい。
無添加味噌、無添加醤油、エキストラヴァージンオリーブオイル、珊瑚カルシウム入り沖縄の砂糖、天然塩、大豆、枝豆、豆腐、金時豆、自家調理の肉魚、刺身、ニンニク、ショウガ、バター、卵、そば茶、小麦粉、乾麺、米。
かなりの制限に驚かれることだろう。できるのは、卵かけごはん、豆腐の味噌汁、ミニトマトのガーリックオイルパスタ、かけうどん、豚の生姜焼き、などが主なもので、料理好きなら逆にやる気がでるのかもしれない。
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富山での宵の口に暖簾をくぐった回転寿し店は当たりで、のどぐろは絶品だったし、白身も赤みも青魚もなんでも美味かった。すっかり富山の夜を一人でささやかに堪能し、ホテルに戻って、体温を計るときっちり上昇していた。
これは仕方がない。消化には多大なエネルギーが費やされ、体を正常に戻すために使われる分が消化に持っていかれてしまうためである。代替医療でよく言われるように、不調時は食べずに治すのが基本であって、食べれば容体は一時的に停滞か悪化するとされている。
でも、気を充実させることも大切だろう。美味しく身体に負担をかけないものを選んで少量いただくのは、元気の素ではないだろうか。ということで、今夜は美味しかったのだ。その代償に一時的に0.5度ほどの体温が上がろうが構わなかったのだ。
「何故僕はこんなところに」というのは、トラベルライターのチャトウィンの言葉か書物のタイトルだが、富山のビジネスホテルの一室で北陸魚の旨さを思い出しつつ、手を伸ばせば届きそうな冷蔵庫やテレビのスイッチを入れずに、こうして原稿を書いている自分の逆像をデスク付きの鏡に見るたびに、その言葉があまりにもぴったりすることに、ちょっと笑ってしまう。「なぜ僕は富山のビジネスホテルに」なのだ。
しかし、全てに理由があるのなら(実は大方の出来事に理由なんてないのだが)今、ここにいることは、何かそれなりの神様の意図があるに違いない。今度はこっちが神様に前貸しする番なのではないだろうか。
私は、飛行機を乗り継ぎ、タクシーに揺られて、今ここにいるわけだが、途中イカになりながらも、ヒーリングのことを考えていた。発熱した時の対処法をいろいろやってみた。たとえば、ツボを押したり、ホメオパシーの最適と思われるレメディをとったりなどなど。だが、いまひとつ効かないのだった。全くというわけではないのだが、いまひとつなのだ。つまりこれは、自分の体調が自分の想像範囲とズレてしまっていることを意味していると考えた。アンコントロール状態というやつである。昨日まで自分の身体として捉えられていたのもがずれてしまっているというのは、芸術的な言説としては洒落ているが、実存的な対象としては、特に体調不良時にはちょっとやっかいだ。
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だが、人に限らず、全ては変化する。全ては去来するのだから仕方がない。昨日までの私よさようなら、なのだ。
これが意味するものは、ヒーリングというのも客体の変化に合わせて変化させるが当然ではないかということ。鉄板なセオリーは一応あるとしても、それが効力を持たないこともあり得るということ。さらに言うならば、川のような流体に対してヒーリングをするようなつもりでないと、常にズレてしまうことになる。
こうくどくど書いてみると、至極当たり前のようだが、それを実感することが経験というものだろう。
私が、富山に発熱しながら滞在して、マックブックを開いているのは、それを経験するために必要だったのだと思う。
24回もヒーリングについて触れてきたのに、いきなり初心に戻らされた気分だが、悪くない。
発熱に関して言えば、そもそもこれは長男の看病をしていてうつったもので、私は本人に求められるままにレイキの手技を与えていた。(レイキに関しては#2を参照)1日に2時間ほどやっていたのだが、即効性はなく、
レイキをしているからこの発熱で済んでいるのだろうと自己本位に考えていたのだが、二日目の夜に、添い寝をして完全にこちらも脱力して施してみたら、今迄とは違うような感触でレイキが入っていくのがわかった。翌朝には、39度が平熱に下がっていた。
そしてバトンを受けて自分が発熱したという次第だ。
ヒーリングに終わりはないなあ、日々学びと精進だと痛感した昨日今日なのであった。
新年の第一回目は、ヒーリング放浪記という副題にも似た、ヒーリング珍道中的な内容になり、いつもと文体も違っているようだが、それも川の流れを尊重しつつ、ということで。
そして一晩がたった。熱は下がっている。カーテンを開けると、富山は今日も曇天のようだ。
(つづく)
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#25」は2016年2月8日(月)アップ予定。

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http://www.neol.jp/beauty/

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