「女性関係」という道徳ツール - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2013年9月11日 20時24分
だが、ここのところ特にひっかかっているのは、「女性」という存在の「利用のされ方」である。
例えば、2011年に政府に反抗的な態度を取り続けた芸術家、艾未未が逮捕されて大きな注目を浴びていた時に当局が最初に声高に流した報道が、「多数の女性と淫らな関係」を持ち、「重婚罪にあたる」というものだった。それまで思い切った発言で人々の関心を集めていた芸術家についての「多数の女性」「淫らな関係」というネガティブ報道の効果はてきめんだった。その直後から彼を語る時に必ず「男女関係の乱れ」を持ちだして嫌悪する人たちが出現し始め、今にいたっている。だが、当局はその後彼を釈放し、在宅起訴した時の容疑は「淫らな関係」「重婚」と大騒ぎされた文字はなく、「脱税」だった。
その後、官吏が汚職で逮捕されるたびに「不特定の女性と不適切な関係」という表現が必ずと言っていいほど出てくるのに気がついた。実際に賄賂代わりにあてがわれた女性との行為中のビデオを暴露されて下野した官吏もおり、「男女関係の乱れ」はあながち「ウソ」とはいえないこともある。もちろん、お金と権力を手にすれば擦り寄ってくるのは男だけではないだろうことも想像できる。だが、「男女関係の乱れ」から摘発された官吏も結局罪に問われるのは「汚職」だった。
実は薄煕来もその逮捕から公判にかけられる直前までずっと、ちらりちらりと政府系メディアは「多数の女性との関係」について触れていた。だが、実際にそれがどうして当局がいちいち流さなければならないような「罪」なのか、その関係が彼の権力とカネの動きにどんな影響を与えたのかについて、先日の公判でも全く触れられることはなかった。
王立軍にも「乱れた女性関係」という報道があった。だが、その後時事雑誌が取材してまとめた、重慶市の公安局長として権力を欲しいままにしていた頃の王を描いた詳細なドキュメンタリーには、遼寧省においてきた妻と娘以外に女性の影は出現しなかった。もちろん、重要な関連人物としての谷開来はそこに登場したが、薄が公判で語ったような男女の関係を匂わせるような記述はなかった。
つまり、逮捕者に対してきちんとした調査や捜査が進めば進むほど、最も話題になっている時に当局が流す「女性関係の乱れ」という情報はウヤムヤになり、最後にはまるでそんな話はなかったかのように消えていく。一体どういうことなのか。
そこにある当局の狙いを、薄煕来公判と前後して明らかになり、ネットで大騒ぎになった「薛蛮子買春」事件で見た気がした。
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