イデオロギーとグレーゾーン - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2013年9月21日 15時33分
今、中国はラグジュアリー製品ブームだ。かつてのバブル時代の日本のように、誰もが手にできるわけではないが世界のブランド品や高級品に熱い視線が注がれている。それに便乗してまるで身分の象徴のようにひけらかす者たちも続出し、そんな人物に対する批判や妬みも多い。この事件はその一人である官吏を引きずりおろしたのだ。
だから、今週初めの「花総、拘束!」という情報はIT業界、そしてメディア業界の関係者を中心に瞬く間に駆け巡った。特筆すべきは、そこで最初に情報プラットホームになったのは微博ではなく、中国では一般の方法ではアクセスがブロックされているツイッター、そして携帯電話上で知り合いとだけ情報交換ができる「微信(WeChat)」だった。明らかにこれまで微博が持っていた圧倒的な情報発信力への人々の信頼は、ここ数週間のうちに完全に失われてしまった。
その後この拘束劇は、なんともきな臭いことがわかって来た。「花総」と微博上で論争を起こし、炎上した「世界贅沢品協会」という背景不明の組織が関わっているらしいという。この炎上騒ぎの背景を取材、記事化した記者によると、事件はその後沈静化したが、今年に入ってから突然、北京の某地区の公安局名義で同協会に関するマイナス報道を取り締まる、という通達が出たというのだ。一つの「民間組織」に関する対応に公安が通告を出してまで乗り出すのは不自然すぎる、と、その記者はネットで発表した手記で語っている。
その後「花総」は保釈金を支払って釈放された。だが、この「花総」拘束をきっかけに、胡錦濤・温家宝時代に公に微博で奨励されてきた「世論監督」や「実名告発」への期待感もあっというまにすぼまった。加えて先週、最高法院(最高裁判所)と最高検察院の二つの最高司法機関が揃って、「今後、微博に書き込まれたデマが500回以上転送(ツイッターでいうリツイート)された場合、そのデマを書き込んだ者を刑事罰に問う」という法解釈を行った。これによって、一介の庶民(ジャーナリスト含む)が微博で官吏たちへの「疑問」すら下手に口にできないといったムードが漂っている。
この政権は中国をこのまま人々の口をふさぎ、毛沢東時代に引き戻してしまうのだろうか?
そんな不安の一方で、新しい改革の兆しも見える。というのも、胡錦濤時代に経済を担当し、習政権下で中国共産党内の腐敗をチェックする中央紀律検査委員会の主任に就任した王岐山の指揮のもと、すでに中央官庁と地方政府で約20人が党の紀律違反で失脚しているからだ。さらに7月には劉志軍元鉄道相に死刑(執行猶予付き)判決が下り、8月末にも胡錦濤時代のトップ9位だった周永康の汚職容疑の捜査が始まったといわれている。
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