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チャリティ王の世界地図 - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2014年1月13日 21時31分



 日本でも「中国人富豪が『ニューヨーク・タイムズ』紙買収を宣言」とまじめにニュース配信された、この買収話は、実は中国では初めからどこも娯楽ネタ扱いだ。とにかく同氏はこれまでも「チャリティ」と銘打って、人々の目の前に札束を積み上げたり、ナマのお金を相手に握らせたりする様子をメディアに見せつけるのが大好きで、四川大地震や日本の東北震災でもでかでかと垂れ幕を貼った車を走らせ、被災地で札束をまき散らした。中国では彼の「チャリティ」とは「個人パフォーマンス」なのだと見られている。

 そんなだから、クリスマスの夜に買収話の気炎を吐き、2014年が明けてからニューヨークに降り立った陳光標氏に対して、中国の経済紙『第一財経日報』は記者が連名で「公開書簡」を発表、「『ニューヨーク・タイムズ』紙の株主構造すら知らないあなたが、どうやって市場価格の半分にも満たない10億米ドルの資金で買収するのだ?」と問いかけている。さらに「『ニューヨーク・タイムズ』にポジティブな中国報道をさせるのだ」と言い続ける同氏に、「新聞自体の買収は無理でも同紙傘下の製紙工場を買収すれば、材料から同紙をコントロールできるよ」と冗談半分に勧めている(だが、『ニューヨーク・タイムズ』が近年ウェブサイトへの比重を強めているのは有名な話である)。

 結局、陳氏は『ニューヨーク・タイムズ』紙にけんもほろろな扱いを受けたらしく、買収を断念することを明らかにした。だが、代わりに『ウォールストリート・ジャーナル』か『ワシントン・ポスト』など「アメリカに影響力を持つ新聞の買収」を今後考えていきたい、と述べている。

 しかし、アメリカで国内外の記者を集めて行なった記者会見で陳氏はそれを発表すると同時に、以前中国の天安門事件で焼身自殺を図り、大きなやけどを負った母娘を記者たちの目の前に立たせ、二人の整形手術のための費用を全額負担すると宣言して、再び内外の記者の度肝を抜いた。

 本人は自分の「チャリティ王」としての立場をアピールしたつもりらしいが、深刻な火傷を持つ母娘をカメラを持つメディアの前にさらし、またその親族もアメリカに呼び寄せて派手な宴席を持つ様子まで公開するその無神経さに、海外のみならず、中国国内でも呆れ声しか聞こえてこない。

 もちろん、中国には騒ぎ立てることなく、静かにチャリティ事業を支援する人たちはたくさんいる。こうした、わざとらしい、無神経な「富豪」による、札束で人の横面をはたくようなパフォーマンスが堂々と「チャリティ」と呼ばれることに怒りを覚えている人たちも多いし、「あれを中国人の代表だとは決して思ってくれるな」と叫ぶ人もいる。その気持はよく分かる。

 だが、わたしには偶然重なったこの二つの「チャリティ王の世界地図」こそが、昔の香港と今の中国の世界地図をそれぞれ表しているように思えて仕方がないのだ。




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