「テロリスト」の向こうに潜むもの - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月6日 16時19分
その後中国当局は「恐怖襲撃」という言葉を何度か背景追及よりも先んじて、意図的に使うようになる。今回も事件が起こったその夜のうちに「恐怖襲撃」と決めつけたことが、すでに起こった出来事の目の当たりにしてショックを受けた人々に油を注ぎ、マイクロブログ「微博」では「無差別」「庶民を標的」「宗教」「犯罪グループ」をキーワードに怒りを爆発させる人たちが相次いだ。
昨年10月末に天安門で起こったジープ炎上事件でも同様だったことを、以前の「吾輩は不機嫌である」で書いた。そしてその時とまた同じように、政府系メディアがアメリカやイギリスのメディアが事件をカッコつきでテロと報じていることに噛み付き、「ダブルスタンダードだ!」と吠えた。
あーあ、またこのパターンですか......と思っていたところ、一方で今回は日頃からしっかりとした報道で人気を集めるメディア、合わせてセルフメディアと呼ばれる携帯チャットアプリ「微信 WeChat」を中心に「なぜこんな事件が起きるのか?」といった面でかなり踏み込んだウイグル情報が流れ始めているのに気がついた。
例えば、経済関係者だけではなく、社会一般の動きに関心を持つ人たちに広く信頼されているニュースサイト『財新網』ではその日現場でいったい何が起こったか、という取材報道以外に、サイト内の有識者ブログで新疆ウイグル自治区の現状や政策が今回の事件の背景になっていることを異口同音に指摘する記述が多く並んでいる。そこでは注意深く言葉を選んではいるが、明らかに中国政府のこれまでの新疆政策、少数民族政策が失敗で、事件を「テロ」とみなして背景原因を無視し続ければ今後事態はもっと深刻化するだろうと指摘されている。
さらに同サイト記者による「テロリストになぜカッコがつくのか」(抜粋翻訳したものをここに掲載した)は、政府系メディアが叱責する欧米メディア「ダブルスタンダード」をやんわりと否定する良記事だった。同サイトのイギリス駐在記者によって西洋メディアにおける「テロ」「テロリスト」の表記判定基準がきちんと紹介され、例えば『ニューヨーク・タイムズ』には「ある組織が襲撃に対して責任を表明、そして同組織がすでに政府によってテロリストグループと認定される場合」などの条件があることを引き出している。同様に昨年4月のボストン・マラソンの爆弾事件でも、オバマ大統領が会見で「テロ」という言葉を使わなかったこと自体がニュースになっていたことを人々に思い出させている。
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