「テロリスト」の向こうに潜むもの - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月6日 16時19分
携帯アプリ「微信 WeChat」ではもっと大胆な記事が流れていた。このサービスにはツイッターやフェイスブックのように知り合いのつぶやきが一覧できるタイムラインのページと、個人間のチャット用ページがある。そして個人間チャットページでは友人とのやりとりだけではなく、さらにネット雑誌アカウントをフォローして購読することができる。人々は日頃からそこで自分の関心に沿って選んだ雑誌の配信を受け、良いと思った記事を自分のタイムラインで友人たちとシェアできる仕組みになっている。
その雑誌アカウントに「新疆で何が起こっているのか?」「新疆はどうしてしまったのか?」「ウイグル人はなにを考えているのか?」「中国国内に住むウイグル人は一体事態をどう見ているのか?」といった記事がどんどん流れてくるのである。個人の手記を紹介する記事あり、ジャーナリストの過去記事あり、あるいは新疆と深い関わりを持つ学者たちの分析あり......。そこには通常のネット環境ではアクセスがブロックされている、香港や台湾、海外のサイトから記事をわざわざコピペして転載したものもあった。
2008年に起こったチベット騒乱以来、中国では少数民族政策に関する言論は非常にセンシティブな取り扱いを受けている。実際に2008年にチベットの「分裂主義」を巡って国内外で激しい論争が起きた時にチベットへの理解を求める論説を発表したジャーナリストの長平氏はその後仕事だけではなく国を追われ、ドイツでの生活を余儀なくされている。漢語でチベット事情を発信するチベット人女性作家のオーセルさんやその夫でチベットやウイグル事情に詳しいドキュメンタリー作家、王力雄さんも度重なる監視下に置かれている。
今年1月には漢語でウイグルの現状を伝えるサイト「ウイグルオンライン」を主宰してきたウイグル人学者のイリハム・トフティ氏とサイト運営に関わっていたウイグル人学生たちが「分裂活動を呼びかけた」として当局に逮捕された。だがイリハム氏は分裂活動どころか、日頃から中国政府との協力を呼びかけているのを知っている人たちから非難の声が上がっている。背景には昨年来騒乱が頻発しているウイグル情勢の混乱がある。当局はとにかく、新疆ウイグル自治区で起こっていることを隠し続けたがっている。
だからこそ、「昆明の事件を単純に犯人をテロリストと決め付け、悪魔だとか犯罪者だとか罵るだけではもうダメなのだ。事件の根本は新疆政策にある。そこではウイグル人たちが厳しい少数民族政策の下、さまざまな権利を取り上げられて、仕事もなく、追い詰められている現状がある。その背景をもっと知って解決策を見つけなければ」と焦りを感じている人たちが多くいるのである。
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