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中国の夢、それぞれの日々 - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2014年4月11日 20時8分

 マレーシア大使館前には多くの警官とメディアが詰めかけていたようだ。だが、警官隊はやってきた家族たちからメディアを引き離し、警官たちが作った壁の外へとメディアを追い出した。家族たちは激昂したまま、大使館に向かって大きな声を上げる。中から書記官のような若い男性が出てきて、家族代表からの抗議書を受け取ったという。

 これら現場の様子を、すべて複数の西洋メディア記者たちの現場ツイートを眺めて理解した。そして「抗議を始めてから2時間、また大型バスがやってきて家族たちはそれに乗ってリドホテルに帰っていった」......。なんとも統制がとれている。ん? そういえば、誰がその「大型バス」を手配したのだろう? ずっと待ち続けていた情報に翻弄された挙句、「生還者はいない」との発表に奈落の底に突き落とされ、情緒的に不安定になっていた家族たちが翌日冷静になり、団体を組んでバスを手配したとでも? そして誰がバス代を払うのだろう?

 そう、最初のツイートを見てひっかかっていた「何か」はそれだった。誰がそんな局面でわざわざそんな手配をすることができたのだろう?



 その夜、わたしは偶然、複数のメディア関係者と夕食の約束をしており、その場に突然の大使館前の抗議活動を取材していて遅れたジャーナリストがやってきた。彼女と同業者たちは自然にマレーシア航空機事件の話題になる。そして、そのうちの一人が、「そういえば、なんか不思議な人が家族に紛れている」と言い、他の2人もぱっと顔を挙げて、「やっぱりそう?」「変だと思ってたのよね」と言った。

 事故発生からその時まで3週間が経っていた。情報は錯綜し、なんの具体的な証拠も、片鱗も見つからない。滞在先のホテルで肩を寄せあって一縷の望みをつないでいた家族たちの情緒も波のようにアップダウンを繰り返しているのをジャーナリストは目にしていた。その中でマレーシア航空や政府のみならず、中国政府の支援を求める人たちから中国当局への不満が頭をもたげてくると、ある男性が「政府だって一生懸命やっている」「今はぼくら中国人が分裂する時じゃない」「ぼくらは団結しなければ」と必ず声をかけるのを、複数のジャーナリストが目にしていた。その人物が本当に乗客の家族なのかどうかわからない、だがずっと家族たちの中にいて、同じことを繰り返したというのだ。

 大使館前の取材から戻ってきたジャーナリストも、バスの中で彼が皆に「抗議のルール」を伝えているのを目にしたという。もう一人が、「バスの車体にも、『親愛なるキミよ、ダイヤの指輪を用意したよ。早く帰っておいで』とかいう気色悪いスローガンが貼ってあるのよね。今の家族にそんな悠長なことを言う余裕がどこにあるんだろう?と不思議でならなかった」と言う。そして現場にいたジャーナリストがこう言った。「バスとは言ってもね、旅行用の大型バスじゃなくて、路線バスよ。路線バスをチャーターしてあったの」

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