中国の夢、それぞれの日々 - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月11日 20時8分
その瞬間、「ああ、そうか」と全員の疑問が氷解した。たとえ家族の中にどんなに冷静になれた人がいたとしても、バス会社の社員でない限り、路線バスのチャーターは思いつかなかったはずだ。だが、路線バスをチャーターして待機させるという場面は、たとえば過去の抗議デモでも出現しており、わたしも目にしたことがある。しかしそれは必ず、公安など当局が手配したものだった。このマレーシア大使館への抗議も、深い悲しみが転じて怒りに燃える家族たちの不満をそれとなく誘導したのは中国当局だったのだ。こうして政府は行き場のない怒りが自分たちに向かうことを巧妙に回避していたのだろう。
この話を、冒頭のテーブルで伝えた。最初は一瞬誰もが目を丸くした。そんなことはどこのメディアも伝えていないからだ。だが、さらっと「十分有り得る話だね」と言ったのはコーチたちだった。彼らは体制の中で日々生活をし、また自分の今があるのも体制内で自身が選手として暮らした経験があるからだ。体制のロジックは彼らが一番良く理解している。さまざまな場面に出入りするうちに、彼らは体制がどんなふうに「人々」を管理しているか身を持って知っているはずだ。いや、ある意味彼ら自身の日常こそ、そうした体制内管理者の末端としての役目も負っている。
そして、「......そりゃそうだ、反日デモだってそうだった」と製作会社の社長が言った。彼らがふとそこで目を伏せたように見えたのは、わたしが日本人だったからだろうか。そして続けてつぶやいた、「今じゃ治安維持予算のほうが軍事予算よりも大きいんだぜ。この国は治安維持で支えられた国なんだから、群衆のなかにそんな人物を潜り込ませるなんて朝飯前だよ」。
彼だって仕事上では嫌でも「当局」と付き合わなければならない。だが、そこで角を突き合わせるつもりはさらさらない。彼自身、「中国の文化コンテンツ製作には未来がない」と断言した。20年前、香港の路上で花壇に腰掛けて、熱く中国の文化コンテンツ事業への夢を語った彼は、製作会社をやっているのは「そこに市場があるからだ」と言う。「市場はある。だからお金は儲けられる。だが、未来も夢もない。中国の文化コンテンツは今そういう状態」
彼が言う市場とはたとえば、以前も「『SHERLOCK シャーロック』ブームに思うこと」で触れたが、中国のネット動画サイトの躍進だ。若者がどんどんテレビ離れをしていてテレビにはもう期待はできない。だが、動画サイトには次々と若者が流れ込んでおり、まず昨年政府が動画サイトコンテンツの取り締まりを実施。そこで海賊版がたくさん締め出された。その結果、主だった動画サイトでは海外からきちんと版権を買い取った番組を提供するようになり、また広告主もつくようになった。ある動画サイトの広告収入は1シーズン(3ヶ月)で約11億元(約180億円)に上ったという。
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