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中国的歴史認識とポピュリズム - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2014年4月26日 18時45分

 だが、振り返ってみると、29億円の賠償支払い命令を無視し続けていた商船三井が、中国とのビジネス、それも国有トップ企業の宝山鋼鉄とのビジネスを何もなかったように今日まで続けてこられたというのも、非常に不思議な話だ。これを日本に置き換えて考えてみよう。内容はともあれ、日本の裁判所から命じられた巨額の賠償命令を無視し続ける海外企業が堂々と日本で商売を続けることに違和感はないだろうか? それも日本政府につながる企業がそんな海外企業と商売を続けていたとしたら?

 商船三井側は2011年の控訴棄却以来、原告と和解努力をしてきたというが、一旦賠償命令がくだされ、控訴も棄却された上で和解――つまり支払い賠償額の引き下げ――を原告側に持ち込んで、相手が首をタテに振ってくれるだろうか。いや、支払い命令を受けた側が努力しても、原告がその話し合いの席につこうとしなければ、その「努力」とやらも一方通行的な言い訳としか取れないのではないか。

 なんとももやもやが残るいきさつばかりが出てくる。少なくともこの事件は、戦前には日本と中国の間にこうした契約違反など力任せの事態があったことを我々に再確認させてくれた。「今後、このような事件が増えるのでは......」という声もあるが、そんなことを心配するのであれば、まず戦前に日本が中国に対してどんな態度をとっていたのかをつぶさに掘り起こす必要があるだろう。戦前の民間商行為においてもきちんとしたものばかりではなかったことがこの事件の詳細が教えてくれた。



 最後に一つ、特筆しておきたいのは、この差し押さえ事件が「なぜ今になって起こったのか」である。

 答は簡単だ。今の中国政府は、ポピュリズムに流れているからだ。前回このコラムでも触れたマレーシア航空機行方不明事件に関わる、家族によるマレーシア在中大使館への抗議活動でも、がっちりと政府当局が周囲を囲って家族を大使館前に送り届けた。同事件に対する中国政府の対応の低調さは、周囲が不思議に思うほどなのだが、それでも家族たちの不満を押さえつけすぎると不必要な爆発を招く。それには適度なガス抜きが必要で、そのガス抜きの道筋は政府が手配したとおりに行われるというわけだ。

 中国社会には今、あちこちに不満が渦巻いている。それは政府も知っている。それに対して政府は微博を使ったり、メディアで明らかな宣伝工作をして、「政府はみなさんのために働いている」という人気取りを、これまで以上に繰り返し刷り込むようになってきた。そうすることで少しでも政府への信頼感を高め、イザというときの爆発を防ぐためなのだ。

 つまり、今回の事件も2007年に判決が下り、2011年に商船三井側の控訴が棄却されて拘留が今になったのは、日中間の険悪ムードの高まりを背景に「庶民のために力を尽くす中国政府」のイメージ作りに他ならない。だが、マレーシア航空機不明事件で国際舞台となってしまった捜索活動で中国は得点を上げることができなかった分、大衆への態度は「親しい政府」が求められた。こうした「庶民に寄り添う」と言いながら、実はその行動のレールを当局がしっかり敷いて導く例が最近とみに増えている。政府は今、自分の立場を脅かさないのであれば、多少の大衆の喜ぶことはやろうとしている。中国の政府系メディアが最近とみに意気揚々、明るい話題ばかりを取り上げるのもそれが理由だ。

 中国政府のポピュリズムについては、今後改めて書こう。

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