STAP細胞事件と朝日新聞誤報事件に学ぶ「だめな危機管理」 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年9月3日 14時40分
理化学研究所のSTAP細胞についての検証実験の中間報告が行なわれた。これまでの22回の実験では、STAP細胞はできなかったという。では小保方晴子氏が記者会見で「200回できた」と言っていたのは、何だったのだろうか。これについて検証実験を行なった丹羽仁史氏は「自家蛍光だったのではないか」と推定している。
体細胞に酸性の液などの強い刺激を与えると、細胞が死ぬ前に一時的な変化が起こり、光を当てたとき発光する場合がある。これは多能性細胞のできたときと似ているので、小保方氏がSTAP細胞と誤認した可能性があるというのだ。この推定は未確認だが、もしそうだとすると、こんな初歩的な誤認がなぜ今まで発見できなかったのかが問題になる。
同じような問題は、いま集中砲火を浴びている朝日新聞の慰安婦問題をめぐる誤報事件と似ている。この場合も慰安婦を「女子挺身隊」という軍需工場に勤労動員する制度と取り違える初歩的なミスが、30年以上も放置された。両者に共通するのは、次のような危機管理の失敗だ。
(1)最初は事実誤認から始まる:強い刺激で細胞が死ぬとき自家蛍光が出るのはありふれたノイズだが、小保方氏のように思い込みの強い人には、それを自分の求めるものが確認されたと思う確証バイアスがある。朝日新聞の植村隆記者も、義母(韓国の支援団体の幹部)から情報を得て「挺身隊」と思い込んだ可能性が強い。
(2)裏を取る過程で捏造する:しかし自家蛍光のデータでは論文は書けないので、行き詰まる。このため小保方氏が、別のES細胞(胚性幹細胞)をSTAP細胞と偽った疑いがある。その入手経路は不明だが、理研の調査では若山研究室のES細胞とDNAが同一だったという。植村記者も、元慰安婦の録音テープの「キーセンとして売られた」という部分を落として「強制連行」と書いた。
(3)管理者が「善意」を信じる:STAP細胞については、初期に「ES細胞のデータではないか」という指摘が理研の内部からもあった。このとき理研が小保方氏の研究室にあったES細胞の証拠を保全して査問すれば、彼女は自供したかもしれないが、理研が「再現実験」をして混乱が拡大した。朝日のケースも、1992年4月に『文藝春秋』で指摘され、編集幹部は誤報に気づいたはずだが、「強制性はある」と変更して主張を維持した。
(4)捏造データが共有される:STAP細胞もES細胞も見た目は似ているので、小保方氏の捏造データを理研の中で共有し、間違いが拡大再生産された。朝日の場合も、韓国語のできる植村氏が「キーセン」の部分を落として訳した録音記録を、大阪社会部が共有して「強制連行」の記事をその後も書いたと思われる。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
みちょぱ 総裁選9氏“旧統一教会スルー”に「嘘でも手を挙げろよ…こんなにあからさまにやるのって凄い」
スポニチアネックス / 2024年9月22日 16時45分
-
凄惨なペットビジネスの実態を暴く…足かけ17年取材を続ける、朝日新聞記者・太田匡彦さんの『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫)9月6日発売
PR TIMES / 2024年9月14日 23時40分
-
NHK中国籍スタッフ不適切発言の処分結果に、中国ネット「言論の自由は?」「もし中国なら…」
Record China / 2024年9月13日 16時0分
-
【自民党総裁選】「いまだにそのようなことを言うことに驚き」 河野太郎氏をイラつかせた「河野談話」質問
J-CASTニュース / 2024年9月10日 11時50分
-
朝日新聞「自民裏金」での新聞協会賞に「辞退せよ」殺到の理由…「しんぶん赤旗」社会部長もXで苦言
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月10日 9時26分
ランキング
-
1中国の最新鋭原子力潜水艦が今年沈没=米国防当局高官
ロイター / 2024年9月27日 7時38分
-
2イスラエル、ヒズボラとの停戦案を拒絶 ネタニヤフ首相「全力で攻撃する」
産経ニュース / 2024年9月27日 8時55分
-
3イスラエル軍がアルジャジーラの支局を閉鎖、活動休止を命ず 支局長「出ていく気はない」
産経ニュース / 2024年9月26日 21時25分
-
4中国に「き然とした態度を示す」……海自護衛艦、台湾海峡を“初通過” 背景に威圧的な軍事活動 専門家「中国はなめていた」
日テレNEWS NNN / 2024年9月27日 8時26分
-
5全身ムキムキ、素手でコンクリートの板を…北朝鮮が急に公開した“特殊部隊”の実力と、金正恩の“意外な銃の腕前”とは
文春オンライン / 2024年9月27日 6時10分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください