女性エベレスト隊隊長に学ぶ、究極の準備(後編)
ニューズウィーク日本版 / 2015年10月5日 18時5分
現実にはほとんどの人が、登山中に何度も脱水やカロリー不足の状態を経験するはずだ。水やカロリーを取る必要があるのに取れない状況にたびたび陥るだろう。スナックバーをポケットから取り出してみたら、七時間も暖かいところに入れていたせいで、噛んだら間違いなく歯が抜ける状態になっていて、もう捨てるしかなく、結局何も食べないまま雪に覆われた山の斜面を下りていく......なんてときはもう最悪だ。水筒の水を飲もうとしたらガチガチに凍りついていて飲めなかった、という悲惨な目に遭うこともある(絶対に凍らないとアウトドア用品ショップの店員が請け合った断熱性ホルダーに入れておいたのに)。つらくても頑張り抜かなければならない状況の感覚をつかんで、登山中最も緊迫した過酷な時期にも登り続けられるようにしておく必要がある。
そういう境地――持てる力を出し尽くして頑張り抜いたという境地――に達したら、次もやれるという自信が生まれ、不安に思わなくなる。高峰に登る場合、これ以上はもう一歩も進めないという気持ちに追い込まれる......。内心こんなふうに思うかもしれない。《うわーっ、もうだめーっ......これが限界かも。これ以上は進めない......》それでもあなたはもう一歩踏み出す......それからもう一歩。さらにもう一歩。自分で行けると思っていた地点を通過する。次にもう一歩も進めないと思ったとき、あなたは心の中でこう思う。《ああ、あのときと同じ――あのときももう限界だと思って、それでもやめなかった。あのときやれたんだから、今度だってやれる》あなたは一歩踏み出す。それから一歩、また一歩。どんなにつらくなっても、あなたは歯を食いしばって進み続ける。あなた独りのためではないから。まわりの皆のためだから。おわかりだろうか。あなたが必死でトレーニングするのは結局は皆のため。チームのためだ。
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