中国民主活動家締めつけに見る習近平の思惑
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月30日 16時30分
その宿題を抱えつつ、目前の執筆に没頭している内に、2014年8月15日を最後に、頻繁に来ていたメールがピタリと止まってしまった。
9月18日になると、その仲間からメールがあり、9月14日に鉄流氏が投獄されたという。そして鉄流氏の家にあったパソコンなど、すべての資料が北京の公安局に押収されたとのこと。
メールは多くの民主活動家にCCする形で送られてきていたので、筆者のメールアドレスもメール内容も、すべて当局に押さえられてしまっているだろう。このルートのCCメールは、以来、一斉に遮断されてしまった。
2015年2月25日になると、他のルートから鉄流氏に2年6カ月の懲役刑が出されたという知らせがあった。
81歳の老人に、である!
形式上の罪は、彼が無許可で『往事微痕』を販売していたという「違法経営」というから噴飯ものだ。細々と出していた小冊子は事実を歴史に刻んでおきたいという遺言状のようなもので、有志が金を持ちあって無料で配布していたのに過ぎない。
巻頭言を書いた謝韜(シェ・タオ)氏(1922年生まれ)は、筆者がいた中国社会科学院の社会科学文献出版社の編集長をしていたこともある中共の老幹部で、筆者の親友だった。2010年に88歳で他界されたが、こういった老幹部の仲間たちは、今もなお生きながらえながら、現在の中国共産党政権のあり方を批判して続けている。
それは中国を愛するがゆえに批判しているのだ。
習近平は何を恐れるのか――?
ひとことで言えば、習近平は一党支配体制が崩壊するのを恐れている。自分がその崩壊を招いた最後の「紅い皇帝」になることを恐れている。(反腐敗運動を権力闘争だとする日本の中国研究者は、中国の現実を分かっていない。胡錦濤政権のチャイナ・ナイン時代と習近平政権のチャイナ・セブン時代が根本的に違うことを理解していないのだ。その視点では習近平が何を怖がっているか、これら知識人の逮捕で何が見えるのかを分析することはできないだろう。)
一連の逮捕に関して特徴的なことが見えてくる。それを列挙する。
1. 先ずはエリート層が6.7億人に達する網民(ネット市民、ネットユーザー)のオピニオンリーダーになることを恐れている。特に新公民運動はエリート層がけん引している新しい形の民主化運動だ。これが広がらないうちに何とか芽を摘み取りたいと思っている。幼児や高齢者を除けば、まもなく7億人に達する網民の数は、意見を表明できる人民の数の圧倒的多数だ。次の民主化はネット空間から起きることを習近平も知っているのである。だからオピニオンリーダーとなり得るエリート層を逮捕する。
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