「ウクライナ」を創るプーチン
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月28日 11時58分
キエフは思っていたよりずっと穏やかだった。昨年、欧米メディアも近くのホテルから実況中継までした一大反政府運動が繰り広げられた独立広場に行くと、モニュメントや狙撃されて亡くなった人たちの写真があったが、革命の臨場感はすでになかった。治安もキエフ市内を歩いていて不安になる経験はしなかった。警察のパトカーが日本の援助による新しいプリウスで統一されていたのが目につき、警官がニューヨーク市警のようなスマートないでたちなので、少なくとも見た目は信頼できそうだった。統計を見ると一人あたりのGDPは約四〇〇〇ドルで日本の一〇分の一程度、昨年以来マイナス成長で、IMFや欧米諸国からの支援でなんとか債務不履行を免れている。だがなにぶんにも豊かな穀倉地帯なので市場は農作物で一杯だったし、郊外のダーチャと呼ばれる別荘で家庭菜園をやりながら週末をのんびりと過ごす人も多いと聞いた。夏には多くの人が休暇を取っていなくなるので、現地の専門家とのアポ取りに少し苦労したくらいで、深刻な窮乏という感じにはほど遠かった。もちろんちょっと見てきたくらいで判ったような気持になるのは禁物だ。私はキエフにしか行かず、ロシアに併合されてしまったクリミヤや、東部の紛争地域を見ているわけではない。東部の紛争でもう少なくとも六〇〇〇人を超える人命が失われ、一四〇万人ほどが国内避難民となっている。実際今回の旅行の私の印象を一言で言えば、ロシアの力ずくの現状変更によって、ウクライナの反ロシア姿勢は後戻りの効かないところまで来たのかもしれないということだった。
もっともだからといってウクライナがしっかり政治的に団結できるかどうかは別の問題だ。実はウクライナが独立国だった時代は歴史的に見てそう長くはない。現在のウクライナの領土は旧ソ連時代の共和国をそのまま引き継いだもので、領域内には多様な民族的、文化的、歴史的背景を持つ人々が住んでいる。とりわけロシアとの文化的・宗教的関係は長く重要かつ複雑で、これについても本誌八一号で下斗米伸夫氏が詳しく分析している。キエフ市内ではロシア語が当然のように通じるし、自分をロシア人だと思っている人々もクリミヤや東部では少なくないのは事実である。またクリミヤは特別だというロシアの主張にも根拠がないわけではない。欧米主要メディアは親ヨーロッパ派が穏健な自由主義者だというイメージで語りがちだが、第二次世界大戦中にドイツと組んだ勢力の流れをくむ、「ファシスト」だとロシアは非難する。確かにウクライナ独立を目指してソ連と執拗に戦いKGBに暗殺されたバンデラのような民族主義者は、ナチ・ドイツとも組んだし、急進的なウクライナ民族主義者の中に反ユダヤ主義的勢力がいるのも事実である。
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