「ブッシュ王朝」を拒否した米世論2つの感情
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月22日 11時40分
一つには、自分の持ち味をいかすことができなかったという、選挙戦術の問題があるだろう。ジェブは、兄のジョージ・W・ブッシュと比較すると、むしろ父のジョージ・H・W・ブッシュに近い知識人であり、国際感覚も豊富な人物だ。しかしその持ち味を選挙戦を通じて浸透させることはできなかった。
特に最後のサウスカロライナでは、兄の前大統領夫妻から、元ファーストレディの母親まで動員しての「ファミリー選挙」を繰り広げたが、保守票欲しさの「下心」が見透かされ、空回りに終わっている。最後になって、コンタクトレンズを使ってメガネを外し、「イメチェン」を図ったものの効果はなかった。
ジェブ敗北の背景には、世論の「ブッシュ王朝への拒否反応」がある。そのような総括ができるだろう。そこには今のアメリカ世論が抱える2つの感情が浮かび上がってくる。
1つは、リーマン・ショック以来の経済の低迷期、つまり「オバマの8年」だけでなく、911テロから、アフガン・イラク戦争、そしてサブプライムローンのバブル崩壊に至る「ブッシュの8年」について、アメリカの左派だけでなく、保守層も拒否反応を持っているということだ。
アメリカの保守派が、「オバマの8年」を苦々しく思っているのは言うまでもない。つまり、同性婚がいつの間にか合憲化され、キューバとの国交正常化や移民への救済措置などが既成事実となる「リベラル主導の政治」に対する拒否感がある。さらに景気刺激策などに多額の国費を投入しているにも関わらず、景気と雇用の戻りが遅い現実に対して、心の底から怒りを抱いている。
では、その前の共和党のブッシュ政権時代は「良かった」と思っているのかというと、それも違う。例えば、トランプの発言は一つ一つを見れば、国際常識に反した暴言だが、イラク戦争への批判や、911が阻止できなかったことへの批判などは、2000年代の「草の根保守」とはまったく異なる立場に立っており、2016年の現在では広範な説得力を持っている。
この点ではクルーズも、宗教保守派を自認しつつ「中東の国家について、いくらその行動が悪質だからといって、アメリカが侵攻して政権を交代させる戦略はもはや取るべきでない」、つまり「政権交代戦略」は放棄すべきだという主張をしている。こうした主張が左派ではなく、右派から出てきて、保守票の中にも広範な支持が広がっている。これはそのまま、「ブッシュの8年への否定論」となっている。
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