予備選で見えてきた「部族化」するアメリカ社会
ニューズウィーク日本版 / 2016年4月11日 19時15分
今年の大統領選挙では、アメリカの歴史を変える現象が次々と起こっている。
その一つが、2大政党制崩壊の兆しだ。
アメリカの選挙制度ではこれまで、共和党か民主党の2つの政党に属さない候補者が大統領に選ばれるのはほぼ不可能だった。
ところが、民主党予備選では、この大統領予備選の以前は「無所属」だったサンダースが、本命視されていたヒラリーに北西部や中西部の州で圧勝している。そして共和党予備選では、トップを走るトランプは共和党員でなかったばかりか、政治ではまったくの素人だ。
共和党と民主党の2大政党制の限界と改善策を語るとき、これまでは「中道」の第3政党の誕生が語られてきた。どちらの党にも属していない無所属の大部分は「中道」だったからだ。だが、2016年の大統領選で起きている現象は、極右と極左の新党の誕生ではない。実は「部族間の抗争」だという意見がある。
「部族」という表現を使うのは、保守の立場から政治を分析するコメンテーター/ブロガーとして有名なマット・ルイスだ。
ルイスは、現在の政治の雰囲気を「かつては政策とイデオロギーについての高尚な論争が、もっと原始的なものに凋落した」と説明する。共和党の政治哲学だった「保守主義」は、今では「やっかいな極右のポピュリズム」にとってかわってしまったという。
ルイスは、現在存在しているのは、共和党や民主党ではなく、「労働者階級の白人」と「マイノリティと高等教育を受けたエリート」の2つの「部族」だという。
【参考記事】トランプ独走態勢が崩れ、複雑化する共和党予備選
私がトランプを含めた複数の候補のイベントに参加して感じたのも、アメリカ国民の「部族」化だ。ただし、部族の数はルイスが言うように2つではなく、もっと細かく分かれているように見える。
たとえば、トランプのスローガンは「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう!)」だが、ここで言うアメリカと、サンダースのスローガンである「A Future To Believe In(われわれが信じる未来を!)」が実現しようとするアメリカはまったく違う。さらに、支持者たちから話を聞くと、アメリカ国民の「アメリカ像」にはかなりのバラエティがあることがわかる。
予備選で取材した人たちの話から、それぞれのアメリカ像が見えてくる。
ルビオのイベントに参加していた60歳前後の白人女性ハイジは、「高等教育を受けたエリート」であり、移民でもある。彼女は、ルビオが力説するように、アメリカとは「移民の情熱と努力が経済を刺激し、アメリカンドリームの実現で成長し続ける国」と語った。さらにハイジは、「私のようにドイツから合法的に移住して市民権を得た者と、不法移民とは違う。アメリカ国民として尊重されたかったら、合法的に来て、国に貢献できる国民になるべき。他人の税金で施しを受けようとする移民は排除して当然」と、移民なのに移民に対して手厳しい。
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