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「ネット言論のダークサイド」を計算機で解析する ── データ分析による報道の技術とその再現性 ──

ニューズウィーク日本版 / 2016年5月10日 20時8分

概要

 英ガーディアン社は、ウェブ版の記事に寄せられた大量のコメントを計算機により解析し、コメントによるハラスメントの傾向を分析した。同社はそれに用いた技術的側面も公開したため、その詳細について検討した。このようなデータ分析は報道の現場でも今後重要度を増し、プロセスの透明性や解析の再現性といった、科学論文執筆関わる諸問題に類似した課題に直面すると予想される。それらの解決に利用可能な技術についても検討した。

はじめに

 CMSの普及以後、個人ブログに限らず、コメント欄を開放している大手メディアのウェブサイトもよく見かけます。大手の場合、管理者があまりにひどい罵詈雑言などは各社の規定に基づきブロックしますが、そうでないものは基本的には掲載されます。大手になればなるほどサイトを訪れる人も増え、このモデレーションの作業が大変になるため、労力に対して吊り合わないと言う理由でコメント欄を閉じてしまうサイトも多いです。しかしイギリスの老舗メディアの一つであるガーディアン紙は、それでもなお読者からのフィードバックはジャーナリストにとっても重要だと信じ、今でもコメント欄を開放しています。90年代末から書き込まれてきたコメントの総数は、今では7,000万件を超える膨大なものとなっています。

 このコメント欄の価値に関して一石を投じる分析が、ガーディアン紙自身によって行われました。この分析がなかなか興味深かったのでここで背景も含めて紹介します。




記事の背景

 殆どの方が体感的におわかりだと思いますが、利用者の多いサイトのあらゆるコメント欄というものはいずれ荒れるものです。これは世界共通の現象です。そこで一定の秩序を保つためには、ある程度のモデレーションが必要です。分かりやすい罵詈雑言などは機械的なフィルタリング(正規表現によるNGワードのマッチング)で可能ですが、ヘイトスピーチなどをこの手法だけで取り除くのは困難です。なぜならば、言葉遣いは非常に丁寧でも相手を罵倒したり差別したりすることは可能だからです。例えば、


「人種Xに属する人々は大変知能が低く、現代的な文明というものを持っていないのです。彼らを力で支配し、正しく導くのは我々の責務だと思われます」



と言う文は完全にヘイトスピーチですが、いわゆる放送禁止用語や分かりやすい罵倒語、わいせつな言葉などを含まないため、シンプルな機械的フィルタリングで取り除くのは困難です。そういった理由もあって、コメントのブロックや削除は未だに人間のモデレータによって行われています。

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