いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く──プルーフ・オブ・ライフ
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月23日 15時45分
紛争国、天災に苦しむ地域に真っ先に入るという印象が強いMSFなのだが、いざ取材をするとなると候補地には意外な場所も多かった。
なぜなら、貧困に苦しむ国にも、性暴力が頻発する地域にも実はMSFは入っているからだ。そのこと自体、俺は何も知らなかった。
当初はパプアニューギニアへ行く話が進んでいて、そこではまさに男性による性暴力への対策として啓蒙活動を続け、なおかつ被害女性への医療的、ないしは精神的、社会的ケアが行われていると聞いて、俺はその一見して地味な活動にこそ光を当てたいと思った。
けれどもちょうどミッションがひと区切りしたとの情報が入り、ではどこへ行くのかいいがわからなくなった。
ともかく、俺は自分側から出したスケジュールの中で受け入れてくれる地域ならどこでもいいと思っていた。
そして、出てきた場所がハイチなのであった。
ハイチ
ハイチ。
2010年にハイチが大震災に見舞われた折、特にクラブミュージックまわりでチャリティ活動への呼びかけが始まり、その中からDJ YUTAKAとZEEBRAを中心としたネットワークで楽曲を作って、売り上げをハイチの子供たちに送ろうという話になった。
とんでもなく豪華なメンバーで作られた楽曲『光』は、まさに音楽業界の常識を破るもので、ここに飛んでいただけば並んだ名前に驚いてもらえるのではないか。青山テルマからクレイジーケン、難波章浩に大黒摩季、かまやつひろしにライムスターにTERU、PUSHIM、高木完などなど。
『JP2HAITI 光』
(なぜか全曲聴けるのはこちらのサイト↓)
この総勢三十組のアーティストが歌っている歌詞を書いたのが自分だった。
当時、ZEEBRAたちと夜な夜な集まって、日本でチャリティをするにはどのような方法があるか、ここで集めた金をどうすれば本当にハイチのために有効に使えるか、音楽業界の圧力があった場合にどう切り抜けるかを話し合っていたのを思い出す。
しかし、俺たちは自分たちの考えていることをまるでうまく実行しきれなかった。
結果、ハイチの子供たちに学用品キットを616個送った。規模は小さいながらむろん成果には違いない。けれど、もっとうまくやれただろうにという思いが俺にはある。不慣れな活動だった。
今回原稿を書くにあたって正確な学用品キットの数字をもう一度メールしてくれたZEEBRAも、やはりメールの中で「今ならもっと」と悔しさをにじませている。
しかも継続して何かやっていこうと考えていた俺たちは、翌年の東日本大震災で手も足も出なくなってしまう。日本がままならないのに、海外の災害にどう関わっていくか、わからなくなってしまったのだ。これはきわめて深い問題なのだけれど、ここではこれ以上触れずに置く(しかし最後まで書かずにすませるつもりはない)。
ともかく、あれから六年経った2016年、ハイチの現状を自分の目で見ることには、MSFからの導きめいたものを感じざるを得ない俺なのであった。
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