本の「せどり」が合法なのに、なぜチケットのダフ屋は違法なのか
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月31日 16時11分
1.不当に高額の利益を得るからダメ?
ライブ会場は有限の空間なので、人気が高まって予約が殺到したからといって、チケットを簡単に増やすわけにはいかない。ステージ手前の特等席なら、なおさら増やせない。チケットの供給量に限りがあるにもかかわらず需要が高まれば、おのずと値段が釣り上がっていく。そこでダフ屋が買い占めれば、供給不足がますます酷くなる。
ただし、チケットの値段が釣り上がることに、どれほどの問題があるだろうか。ダフ屋を規制する迷惑防止条例の原型は、日本の敗戦直後期に定められた「物価統制令」という法令である。生きていくために必要な食糧の物価が上がりすぎないようにコントロールする目的があった。チケットの値段が上がることとは事情が異なる。
そもそも、この国の民法には「契約自由」という基本原則がある。売り手と買い手、契約当事者の双方さえ納得していれば、どんなに高い値を付けて売買しても構わない。そのチケットをめぐって、どれだけ多額のお金が動こうが「契約自由」であり、転売契約に絡んでいない第三者には関係のないことだ。この「第三者」には、他の観客やライブの主催者、そして警察も含む。
2.暴力団の「シノギ」だからダメ?
たしかに、ダフ屋稼業は、暴力団やその周辺の資金源となっていることでも知られており、野放しにできない面もあるだろう。イベントの運営側としても、コンプライアンス(法令遵守)という視点から、たとえ間接的にでも暴力団を黙認するイメージを持たれるわけにはいかない。
しかし、だからといって、チケットの転売ビジネス全てを否定するのは行きすぎではないか。台所でゴキブリ1匹見つけたからといって、家をまるごと燃やすのに似ている。暴力団の規制について、それはそれで別個で行うのが本筋であろう。
もし、これら「1」と「2」の理由でダフ屋を禁止しているとすれば、説得力が弱い印象を受ける。迷惑防止条例で規制するにしても、何をもって「迷惑」とするのかが不明確なのである。
いっそ、ダフ屋を許可制として一部解禁、あるいは全面合法化させてもいいんじゃないか......との意見が根強いのも頷けるところだ。
すでに言及したとおり、この資本主義社会において、転売そのものは悪ではない。ダフ屋行為に中途半端なグレーゾーンを作るぐらいなら、思い切って陽の当たる場所へ引っぱり出したほうが、ダークサイドの業者は逃げていきそうである。
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