本の「せどり」が合法なのに、なぜチケットのダフ屋は違法なのか
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月31日 16時11分
ただし、次のような側面も無視できない。ダフ屋を規制すべき「感覚的」な理由である。
3.エンターテインメントの雰囲気を壊すからダメ?
物や情報で満ち足りた現代において、最後のフロンティアは「心を満たすビジネス」にあるといわれて久しい。
日常の悩みや苦しみ、しがらみを忘れて、自らの心を解放するところに、人々がエンターテインメントを楽しむ目的がある。エンタメ業者には、人々が心を解放できる非日常の空間を演出し、雰囲気を作る責務がある。
だとすれば、観客がライブ会場へ向かう道すがらに、ダフ屋が声を掛け、「裏取引」「欲しがる人間の足元を見る」「この世は結局、カネ次第」といったような生々しい現実を思い起こさせるような状況は、決して見過ごせないことになる。
電子チケットを導入したり、ときには顔認証システムまで使って本人確認を徹底するイベント業者は、理屈や原則は脇に置き、もっとエモーショナルな思いと責任をもって、ダフ屋との関わりを懸命に排除しようとしているのかもしれない。
ただ、本来はそこまでしなくても、ほとんどのエンターテインメントは、ダフ屋の存在を忘れるぐらい楽しいものだと思う。というより、ダフ屋が暗躍するほどの人気を博するエンターテインメントを創り出せること自体が立派である。
[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」
長嶺超輝(ライター)
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