米国とロシアはシリアのアレッポ県分割で合意か?
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月5日 10時30分
この過程で、ロシアは、停戦を破棄したシャーム自由人イスラーム運動とイスラーム軍を、ヌスラ戦線、ダーイシュと同様に国際テロ組織に指定するよう安保理で主唱、米英仏がこれを拒否すると、5月20日にはダーイシュ、ヌスラ戦線、そして「停戦に応じない武装組織」に対する合同軍事作戦を米国に提案した。米国がこの提案を再び拒否すると、ロシアはさらに25日、「反体制派」に対してヌスラ戦線を排除しなければ、空爆を再開するとの最後通告を突きつけた。
そして、最終的には、セルゲイ・ラヴロフ外務大臣とジョン・ケリー米国務長官が6月1日の電話会談で、ダーイシュ、ヌスラ戦線、そして「そのほかのテロ組織」に対する断固たる措置を講じることを確認したのと時を同じくして、有志連合の支援を受けるシリア民主軍が「マンビジュ解放作戦」を開始、ロシア軍とシリア軍もアレッポ県などで攻撃を強めていった。
米国とロシアがこの間の折衝で具体的にどのような意見を交わし、そしていかなる合意に達したかは知る由もない。だが、シリア国内の戦況から明らかなのは、米国がPYDと連携してダーイシュとの「テロとの戦い」を、ロシアがシリア政府と連携して「反体制派」への「テロとの戦い」をそれぞれ強化したことである。
米国とロシアのシンクロの受益者となる紛争当事者は、言うまでもなくシリア政府とPYDであり、そこにはジュネーブ3会議において「反体制派」を主導していたはずのリヤド最高交渉委員会の姿はない。リヤド最高交渉委員会から脱会したシャーム自由人イスラーム運動、そして同委員会における交渉責任者の地位を手放したイスラーム軍は、米国の黙認のもと、これまで以上にシリア軍とロシア軍の空爆に曝されるようになっている。
こうした状況は、「ポスト・ジュネーブ3会議」段階におけるシリア政治のパワー・バランスを予兆するものであり、そこでは欧米諸国が後援してきた「反体制派」は、ダーイシュ、ヌスラ戦線といったテロ組織とともに阻害され、これらの組織を後援してきたトルコ、サウジアラビア、カタールはこれまで以上に困難な舵取りを迫られるかもしれない。
[筆者]
青山弘之
東京外国語大学教授。1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院修了。1995〜97年、99〜2001年までシリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所(IFPO、旧IFEAD)に所属。JETROアジア経済研究所研究員(1997〜2008年)を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。編著書に『混迷するシリア:歴史と政治構造から読み解く』(岩波書店、2012年)、『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』(岩波書店、2014年)などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」を運営。青山弘之ホームページ
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
青山弘之(東京外国語大学教授)
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