戦争の時代:ロシアとの最終戦争は回避できるか
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月6日 21時0分
<ウクライナ危機で目の当たりにしたように、われわれは危うい時代に生きている。着々とロシア包囲網を築く西側諸国は、いつロシアとの勝算なき戦争に踏み込んでしまうかわからない。もし始まってしまえば、次の戦争を戦える国は一つも残らない> 写真は今年4月、バルト海を航行中の米ミサイル駆逐艦の上を飛ぶロシアの戦闘機
2013年のウクライナ危機を目の当たりにしたときわれわれは、自分たちが危うい時代に生きていることを知った。1989年の冷戦終結によって誕生した欧州の平和秩序が実は不安定なものだったことが、ますます明白になっている。当時交わされた取り決めは現在、解決不可能な摩擦を生み出しているように見える。
欧州連合(EU)は事あるごとに、EUが平和のプロジェクトであることを主張し、事実EU内では大きな成果を上げてきた。だが、国境を超える「友情の輪」(2002年に欧州委員会のロマーノ・プローディ委員長が使った表現)が、今は紛争や緊張による「炎の弧」に変わりつつある。
北アフリカでは国家が相次いで崩壊した。中東地域は、複数の代理戦争の舞台になっている。
2015年末にロシアがシリアに軍事介入して以降、最も顕著なあつれきの一つは、シリアの将来をめぐるロシアとアメリカの主導権争いだ。しかしこれは、武力衝突につながる可能性がある多くの火種の一つにすぎない。潜在的な火種は多過ぎて、どれが軍事衝突にエスカレートするかを予測するのは不可能だ。
【参考記事】プーチンはなせ破滅的外交に走るのか
あつれきの激化と軍事化
一方、ロシア国境周辺の陸海空にはNATO(北大西洋条約機構)軍が展開しており、2016年5月にはミサイル防衛の運用も開始された。このような動きをロシアは、自国の生存そのものに対する脅威と受け取っている。
ロシア政府は、ルーマニアに配備された米国の地上配備型イージス・システムを、ロシアの核抑止力を無効にする可能性があると見ている。1987年に締結された中距離核戦力全廃条約(INF)は中距離巡航ミサイルを禁じているが、なし崩し的に配備が行われているとロシアは見ている。そしてバルト海と黒海のロシア軍事基地のわずか数十キロメートル先では、アメリカの新型軍艦が演習を行う時代になったのだ。
【参考記事】バルト海に迫る新たな冷戦
このような動きをロシアは、自国の安全に対する直接の脅威と見なしており、核弾頭の搭載が可能なミサイルを、カリーニングラード、あるいはクリミアにまで配備することも辞さないと脅している。ロシア軍は、ICBM(大陸間弾道ミサイル)や超音速巡航ミサイルのほか、マッハ5以上の速度で飛行するミサイル等を検知し破壊する能力を持つ対空ミサイル防衛システム「S-500」(別名「55R6M Triumfator M」)のプロトタイプのテストを行ったところだ。INFやSTART(戦略兵器削減)条約が弱体化したり破棄されたりすれば、数十年にわたって行われてきた骨の折れる軍縮交渉が台無しになる可能性がある。
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