戦争の時代:ロシアとの最終戦争は回避できるか
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月6日 21時0分
他方、一部の防衛アナリストは、ロシアのウクライナ侵攻により冷戦後の安定状態はすでに崩壊したと主張する。2014年3月までNATO副司令及び英国軍大将を務めていたアレクサンダー・リチャード・シレフ卿は自著『2017: War with Russia(2017年:ロシアとの戦争)』の中で、戦争の危機が差し迫っていると率直に述べている。
シレフはロシアについて、NATOによる包囲を逃れるために、ウクライナ東部の領土を奪取してクリミアへの陸路を確保し、バルト海周辺国の侵略を試みると予測している。戦争を提唱するかようなこの種の空想は、NATO関係者の思考の中に長い間受け継がれてきた。2014年にウクライナ問題が手に負えない状態になり始めたころ、NATOのフィリップ・ブリードラブ欧州連合軍最高司令官は、ロシアのさまざまな侵略行為を予測する専門家のような存在として、特にドイツで不安を掻き立てた。
NATOは、いとも簡単に戦争へ入り込んで行きかねない。紛争についてこのように語ることで、その可能性はますます「常態化」していく。2016年2月に放映されたBBC2のテレビ映画は、ロシアがラトビアを攻撃し、核戦争へエスカレートしていくというシナリオだった。
オバマ政権はドイツに対し、ロシア国境付近におけるNATOの存在感を増強するため部隊を配備するよう働きかけている。ナチスが同じことをした1941年には、ロシアは壊滅的な打撃を受けた。ナチスが旧ソ連に侵攻し約2000万人の犠牲者を出した独ソ戦だ。
危機の瀬戸際から回復する
欧米諸国の防衛問題評論家たちは、ウラジミール・プーチンの「徐々に攻撃性を増す行動」について語り、「ロシアによる侵略」という言葉を決まって使用してきた。だがその一方で、そもそも何がこのような危険な状態を作り出したのかということについて、立ち止まって考える者はほとんどいない。
中国がこれまで何度も指摘してきたように、ウクライナ危機は、どこからともなく湧いてきたような問題ではない。5月半ばにブリュッセルで開かれたNATO外相理事会のスローガンは「抑止と対話」だったが、この会合で強調されていたのは前者だった。7月にワルシャワで開かれるNATOサミットでは、アメリカとその同盟国に対して脅威をもたらしている問題として、「ロシアの侵略」「イランの冒険主義的政策」「中国の南シナ海埋め立て」「不安定な中東情勢」が確認される見込みだ。
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