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企業という「神」に選ばれなかった「下流中年」の現実

ニューズウィーク日本版 / 2016年6月21日 16時0分

 つまり下流中年は、「そこに生きる意義」を欠いたままの状態で生かされているのである。もちろん収入は多ければ多いほどいいし、そのぶん生活も安定するだろう。しかしそれ以前に彼らも、社会の一員として認められるようなシステムが確立されなければならない。

 中年層は、活き活きとして働ける場がないと、決してハッピーにはなれません。潤沢な生活保護があってもダメです。社会で自らの役割や居場所があり、そこで自分の能力を発揮できる。そういった職場があることが、中年層には大事です。(123ページより)

 第3章「それでも、『下流転落』に脅えることなかれ――分断社会から安心社会へ」において、阿部もインタビューを通じてそう主張する。ちなみに"潤沢な生活保護があってもダメです"という彼女は、厳しい状況に追い込まれている人たちには支援が必要で、そこから抜け出す方法を考えていく一歩の一つが生活保護であるべきだとも主張している。

【参考記事】気が滅入る「老人地獄」は、9年後にさらに悪化する

 一見すると、これは矛盾した論理展開だ。「生活保護があってもダメ」といいながら、「いざというときは生活保護を」と訴えているのだから。ただし、ここには、そういうこと以前に注目すべきポイントがある。

 つまり、「活き活きとして働けて、人間としての尊厳が保てる」状況があるべきなのだが――それは当然の理想論なのだが――「それ以前に、まず生きなければならない」という切羽詰まった状況に置かれている人が、それだけ多いということだ。つまり、結果的に論理の矛盾を生んでしまうほど、問題は複雑化していると捉えるべきなのではないか。



 今は社会に関わりを持てている"働き盛りの"中年世代であっても、突然、転落するかもしれないリスクは誰もが持っている。それどころか、真面目で、他人の痛みを理解できる優しい普通の人が、"社会のレール"から外れて、抜けられなくなっていく。
 1日に10時間以上働いても、月に10万円余りにしかならない実態にあえいでいる働き盛りの世代も多い。(235ページより)

 池上と加藤による第4章「ルポ・下流中年 12人のリアル」のまとめ部分には、上記のように書かれている。ではそんななか、中高年世代にもっとも必要なものはなにか? それはセーフティネットだ。彼らは生活困窮者自立支援法では対象になっているものの、窓口の対応では想定されていないというのである。だから、それがまた彼らを苦しめる。社会の役に立ちたいと思っても、道が用意されていないのだ。いま、すぐにでも取り組むべきが、その点の改善であることは明らかだろう。

 なお、この章で明らかにされている下流中年たちの生の声をここに引用しなかったことには理由がある。あまりに生々しすぎるだけに、引用の確認で済ませず、一字一句読んでほしいという思いがあったからだ。現実的に、いま、私たちにできることは少ないかもしれない。しかし、だからこそ、彼らの真実を受け止めることが大切だと考えるのである。


『下流中年 一億総貧困化の行方』
 雨宮処凛、萱野稔人、赤木智弘、阿部彩、池上正樹、加藤順子 著
 SB新書


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。



印南敦史(作家、書評家)


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