【ルポ】南シナ海の島に上陸したフィリピンの愛国青年たち
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月8日 17時0分
マニラのビジネス街・マカティ出身のジェスパーは、高校時代から生徒会で活躍するなど社会問題に興味があった。昨年、友達に誘われてこのグループの活動に参加した。その時にボランティアが言っていた「国家統一と愛郷心は、国を前進させるために避けては通れないジャンプ台だ」という一言に心を揺さぶられ、運動にのめり込むようになった。
3日目の昼にパガサ島に着いた。アンドレ(34)は船から降りると、足元にサンゴ礁の死骸があることに気づいた。中国が近くで人工島を造っていて、化学物質が流れ出てきたからではないかと推測した。中国はパガサ島周辺の魚を死滅させて食料を奪うことによって、島民が島から離れさせようとしているのだ、と思った。
わずか20キロ先に中国が実効支配するスビ礁
西フィリピン海に浮かぶ島々を管轄するカラヤン町政府は、政策としてパガサ島への移住を奨励してきた。しかし、予算不足の地元政府が提供できる食料には限界があるため、島民は120人以下にとどまっている。時々本島に帰る人もいるので、島に住民が90人ほどしかいない時もある。
パガサ島から西へわずか11海里(約20キロ)にあるスビ礁。中国側が実効支配するこの場所で、2010年には灯台が出現し、その翌年には直径20メートルのドーム状の建築物が登場した。さらに、中国は2014年から急ピッチで埋め立てを行い、その面積はすでに395万平方メートルに達している。
ユーヘニオ・ビトオノン・カラヤン町長は筆者との書面インタビューで、「昼間、水平線がクリアであれば、(パガサ島からスビ礁が)はっきりと見える。夜になるとスビ礁はさらに良く見える。建築物がライトアップされているし、灯台が強く光っているからだ」と回答した。中国やベトナムの漁船がやってくるのは日常茶飯事で、これらの国のパトロール船や沿岸警備船が来ることもある、とのことだ。
オフィスで話を聞いた際、グループでリーダー的な役割を果たすジョイという女性は、平均的なフィリピン人よりはずっと南シナ海問題を深刻に捉えていた。中国が現在実行支配しているフィエリークロス礁、スビ礁そしてミスチーフ礁を結んでできる三角形で「大量破壊兵器貯蔵のトライアングル」を作ろうと企んでいるという。彼女はさらにこう叫んだ。「チベットと台湾で何が起きた? パラワン島もあっという間に中国に取られるわ。そして私たちは中国の一つの省になるの」
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