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【ルポ】南シナ海の島に上陸したフィリピンの愛国青年たち

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月8日 17時0分

 団体メンバーがパガサ島に着いたのは奇しくもクリスマスの次の日だった。カトリック教徒が大多数を占めるフィリピンにおいて、クリスマスは最も重要な記念日の一つだ。そのお祝いはなんと9月から始まる。パーティーが毎日のように続き、クリスマス当日は家族で集まるのが習慣だ。それにもかかわらず、50人の若者たちはこの島を目指すことを選んだ。

 その代わり、彼らはパガサ島で一風変わった遅めのクリスマスを祝うことになった。フィリピンでは、この時期に子供達が家々を訪ね、クリスマスソングを歌ってはコインやお菓子を集める「キャロリング」という風習がある。だが、この島では逆のことが起きた。メンバーみんなで各家庭を回り、島の子供達にジュースとドーナツを配った。子供達の歓声が響いた。多くの子供にとって、ドーナツというものを手にするのは初めてのことだった。

 アンドレによると、ある母親は「みんな、ここに来てくれてありがとう」 と呟き、涙をあふれさせた。いつもは孤立しているんだろうな、と理解した。その女性の涙が伝わるようにして、自分たちの目も潤んできた。ジングルベル、ジョイ・トゥー・ザ・ワールド、そしてタガログ語のクリスマスソングを歌ってあげると、子供達が歌声に加わって大合唱になった。

 フィリピンの若者達が体験した大冒険を通して、この領有権紛争の奥にひそんだある像がくっきりと見えた気がする。それは、巨大な隣国に対して経済的に劣った自国が、その領土すら自国単独では守れないという現実への絶望にも似た苛立ちと焦りだった。

[筆者]
舛友雄大
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院アジア・グローバリゼーション研究所研究員。カリフォルニア大学サンディエゴ校で国際関係学修士号取得後、調査報道を得意とする中国の財新メディアで北東アジアを中心とする国際ニュースを担当し、中国語で記事を執筆。今の研究対象は中国と東南アジアとの関係、アジア太平洋地域のマクロ金融など。これまでに、『東洋経済』、『ザ・ストレイツタイムズ』、『ニッケイ・アジア・レビュー』など多数のメディアに記事を寄稿してきた。


舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)


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