「親を捨てるしかない」時代に、子は、親は、どうすべきか
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月27日 6時15分
ところが、この世帯分離が書類上の裏ワザではなく、現実のものとなる場合もあるのだそうだ。たとえば年金や生活保護で生活している親のもとに失業した息子が帰ってきて、単身者世帯から2人世帯になったような場合、親の生活保護は打ち切られ、その一方で月々の負担は増えることになる。そうして親子ともども窮状に追い詰められた末、親が再び生活保護を受けられるよう、世帯を分離させるのである。実際にそうした人たちのケースが、ここでも紹介されている。
しかし考えてみると、高齢者を家に抱えることは、いまにはじまったことではない。なのになぜ、最近になってそれがリスクになってきたのだろうか? その原因のひとつとして、著者は「日本人があまりにも長生きするようになった」ことを指摘している。たしかに、人類にとっての夢であった長寿は実現された。だが、それで私たちが幸福になれたかといえば、必ずしもそうではないということだ。
【参考記事】気が滅入る「老人地獄」は、9年後にさらに悪化する
超長寿社会とは、高齢者になっても親が生存している可能性の高い社会であり、それは超高齢化社会への道だ。高齢者の子どもが後期高齢者の親の介護をすることは、過酷な状況を強いられるであろう老老介護の一種だ。その先には、自分が死ぬときに親が健在という事態も考えられる。また、そこには「孤独死」や「無縁死」の増加という現実も加わるだろう。
そんななかで著者が問題視するのは、「子どもには迷惑をかけたくない」が高齢者の間でキーワードになっているという点だ。自分の死後の後始末は本人にはできないので、子どもにとって迷惑になるかもしれない。できるだけその負担を減らしたいと考えるのは当然で、だから「終活」という活動が注目されたりもする。だが、そこにさまざまなハードルがあるのも事実。葬儀の方法、相続など、あらゆる問題点が露呈することになるのだ。
終活をはじめたときに、すでに高齢者になっていたとしても、まだ当人は元気であり、そういう状態だからこそ、自分の老い先を考えようとする。 しかし、その時点では、自分が老いるということが具体的に何を意味するのか、はっきりと理解できていない。老いたときの自分の状態や気持ちが、それより前の時点では具体的に想像できないのだ。(106ページより)
たしかに、それは当然のことかもしれない。終活をはじめた時点では「いさぎよく死にたい」と考え、無駄に命を長引かせる終末期医療など拒否するという立場に立っていたとしても、そうした事態が現実味を帯びてくると、その決意は往々にしてぐらつく。
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