英前政権の「負の遺産」、中国の原発参入に安全保障上の懸念
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月5日 17時54分
英政府は9月15日、ヒンクリー・ポイント原発(南西部サマセット州)の建設計画を承認した。総事業費は約180億ポンド(約2兆4000億円)で、主体はフランス電力公社(EDF)だが、中国の原発大手、中国広核集団(CGN)が約3割を出資している。
英国の欧州連合(EU)離脱を決めた6月の国民投票の後に就任したメイ首相は、中国が国家安全保障に関わる原子力政策に関与することになるとの懸念から最終承認を保留していた。ただ、国家間で一度、合意した計画の一方的な破棄はよほどの理由がない限り難しく、当初から選択肢は事実上なかったと言っても過言ではないだろう。
欧州での論調を見ると、中国での歓迎ぶりとは対照的に、計画そのものを前向きに捉えたものはほとんどなく、キャメロン前政権からの負の遺産を引き継がざるを得なかったとの見方が大勢を占める。また、国際的なエネルギー情勢を考慮すると、今後の見通しについても悲観的にならざるを得ないようだ。
メイ氏の政治顧問が疑念
前政権で決まった今回のプロジェクトだが、キャメロン前首相は元来、親中派だったわけではない。2012年5月にはチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談、英中関係は過去最悪と呼ばれるほど悪化した。潮目が変わったのは、保守党内の強硬派の突き上げなどで権力基盤が揺らぎ始めた同年夏のロンドン五輪後だ。
中国通のオズボーン財務相(当時)に導かれる形で親中路線にかじを切り、13年12月に首相自ら訪中して中国企業への門戸開放を大々的にアピール。15年3月には米国の意向を無視する形で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。同年10月には、訪英した習近平国家主席を王室まで動員して最大限に歓待。この時に合意されたのが今回のヒンクリー・ポイントを含む、計3件の英中原子力協力だ。
【参考記事】ダライ・ラマ効果を払拭した英中「黄金」の朝貢外交
【参考記事】「誰もが中国に恋をする」─ 中国、原発を使い外交攻勢
当時、メイ首相は治安を担当する内相だったが、右腕とされる政治顧問、ニック・ティモシー氏は、契約締結に関連して「政府は国家安全保障を中国に売り渡そうとしている」と題する意見書を、保守党系のサイトコンサーバティブ・ホーム(15年10月20日)を通じて公表している。
それによると、中国が最も英国に望んでいるのは「人権問題で口をつぐむこと」だとして、その成果が表れた例として、反体制派の芸術家、艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏に対し、申請通りの長期ビザを発給しなかった一件を挙げた。また、オズボーン財務相が新疆ウイグル自治区のウルムチを訪問した際、ウイグル人に対する人権弾圧などについて全く触れなかったことにも憤りを示している。
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