ダメな会社には「脳外科手術」が必要だ
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月14日 12時2分
神経科学の新たな知見は、リーダーが「現状維持の圧力」を乗り越えるヒントを提供するかもしれない。それには、脳の記憶のメカニズムや、学習や環境変化に対する反応についてよく調べる必要がある。脳内には「ワーキングメモリー」と呼ばれるスペースが存在する。そこでは、知覚によって得られた外部刺激をそれまでに蓄えられた情報と照らし合わせ、それが新しいものであるかを判定する。その結果によって、刺激の処理方法を決めるのだ。
新しくない、慣れ親しんだ刺激であれば、「ルーティン」としてワーキングメモリーの一部になる。たとえば車の運転を覚えようと数カ月も近所を乗り回していれば、何も考えずに運転できるようになる。周囲の環境に慣れることで、直感的に先を読めるようになるからだ。しかし車で初めての土地に出かけた時などには、ワーキングメモリーの力を借りなければならない。脳のワーキングメモリーは周囲の環境(新しい土地)を、これまでの経験による知識と比較し始める。そうしているうちに、比較的短い時間で新しい環境に慣れ、「何も考えない運転」ができるようになる。
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人間も組織も「違い」に敏感だから
こうした脳のプロセスは、組織が重要な変化を起こす時に呼び出されるダイナミクスと同じだ。上級管理職が組織のメンバーに「変化する」という意志をいかに"売り込む"かによって、組織が受けるストレスの度合いが変わってくる。こうした"売り込み"のせいで慣れ親しんだルーティンが妨害を受けたり、止めるように言われたり、まったく異なるかたちに変えさせられる、といったことがあると、組織のメンバーは「何も考えない運転」ができなくなる。そうなると、彼らは自分の意思決定に自信がもてなくなり、「変化」に抵抗するようになる。
脳の機能を研究している学者たちは、人間の脳が「違い」に敏感であることを指摘している。脳が「違い」を感知することで、人は感情的、あるいは衝動的な行動に走りがちだ。組織も同じだ。変化の「売り込み」が適切になされないと、組織の人々は、何を期待すればいいか、どんなインパクトが想定されるかがわからない。その結果、あまり適切でないリスクをとることにもなりかねない。そのリスクとは、たとえば安易な値引きや抱き合わせ販売などを指す。
管理職にとって重要なのは、変化をすんなり受け入れられるようになるまで、組織のワーキングメモリーを育てていくことだ。業務プロセスの改善に関する機能を「異物」ではなく、企業が共有する歴史の一部と感じられるようにしなければならない。リーダーは熟練した外科医であるべきだ。組織の脳の限界を超える危険な手術を行ってはならない。今ある機能を使って修復、改善していくことが大事なのだ。
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