習近平と李克強の権力闘争はあるのか?――論点はマクロ経済戦略
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月18日 17時54分
これも中国政治構造のイロハを知らない人たちの邪推に過ぎない。
論点はマクロ経済――国家経済政策に関する重点の置き方
それなら習近平と李克強の間に、まったく論争がないのかと言ったら、そうではない。
大きな意見の相違がある。
それは中国経済のマクロ政策に関する両者の観点の相違だ。
●李克強の考え:市場化、城鎮化、イノベーション
李克強は北京大学で経済学を学んだだけでなく、国務院副総理時代(2008年3月~2013年3月)から政府系列の国家経済に関して担当していた。だから経済に強いし、また国内に山積する問題に関して強い関心を持ち、それを先に解決しないと中国の国力は落ち、一党支配体制が維持できないと考えている。
だから彼の主張は「国営企業の構造改革と市場化・民営化」および「2.67億人に及ぶ農民工の定住のための城鎮化(都市化)政策」を重視し、そのために「イノベーションを加速させる」が最重要課題だと考えている。
生産能力過剰は供給側の問題で、国有企業の改革が肝要と主張する。
●習近平の考え:一帯一路(党が全てを決めるという毛沢東的発想。党司令型)
習近平は今さら説明するまでもなく、毛沢東とともに戦った革命第一世代の「紅い血」を受け継いだ「紅二代」だ。親の習仲勲のお蔭で、文化大革命後に軍関係の仕事に就いたが、大物の下にいると、いつ政権変動が起きて権力者が引きずり降ろされるか分からないので地方から叩き上げよという親の忠告で地方の党の仕事を始めた。その「地方」のレベルをどんどん上げていき、江沢民の推薦により、2007年の党大会で国家副主席の座に就き、こんにちに至っている。
そこで見られるのは、親(紅一代)の七光りにより「党」の指導者側に立って歩んできた道のりである。経済に関しては、素人だ。
だからあくまでも「党が全てを決める」という「党司令型」の思考回路しか持てず、経済に関しても「中国の特色ある社会主義政治経済学」という、「党司令型」の経済を提唱している(たとえば、7月8日の経済座談会)。
言うならば、毛沢東時代の「哲学政治経済学」を踏襲しており、実は改革開放が目指すべき「市場経済的思考」からは、ほど遠い。
結果、生産能力過剰は「党主導の一帯一路構想で解決する」というのを、最優先としている。
ここには、中国経済の未来、もっと言うならば中国の未来が掛かっている決定的な分岐点があるのだが、習近平にはそれが見えていない。
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