がん治療にまた新たな希望 免疫療法で製薬各社の競争加速
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月18日 18時43分
イブリン・オフリンさんは今も肺がんを患っている。だが1年以上前に、従来の耐え難い化学療法に代えて、新しい免疫系強化薬を試してみたところ、気分はとても良好だという。
「まるで奇跡のよう」と、かつて喫煙者だった72歳のオフリンさんは語る。彼女にはまもなく曾孫が生まれる予定だ。
米製薬大手メルクの免疫療法薬「キートルーダ」による治療を受けている患者のなかで、オフリンさんは成功例の1つである。
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)総会に提出されたデータによれば、英国における臨床試験の一環として、オフリンさんに行われている初期段階の免疫療法は、増加する患者に対する標準となりそうだ。
だが、そこに罠もある。誰にでも効くというわけではないのだ。
免疫療法のみの治療が化学療法よりもうまく行くように見えるのは、これまでは治療不可能だった肺がん患者のうち、免疫療法に対する受容性を高める「PD-L1」と呼ばれるタンパク質の値が高い人だけである。
コペンハーゲンで開催されたESMO総会では今後、肺がん患者はこの生体指標を定期的にチェックするべきだと腫瘍学者に伝えられた。
だが、非小細胞肺がん患者のうち、PD-L1を生成する細胞を最低50%含むような腫瘍が見られるのは、4分の1から3分の1にすぎない。大多数の患者は免疫療法を受けられず、市場の約70%は依然として未開拓のままである。
1種類の薬剤だけを使う単剤療法であらゆる患者に対応できないことは、米製薬大手ブリストル・マイヤーズ・スクイブにとって打撃だ。ブリストルは「オプジーボ」と呼ばれる薬による治療ですべてに対処しようとしていたが、大規模な臨床試験において全面的に失敗してしまった。
ただ、これによって、メルクやスイスのロシュ、英アストラゼネカといった、史上最大の売上をもたらす薬の1つになり得る製品を持つライバル製薬会社にとっても競争の場が開かれた。各社とも、複数の治療法を巧みに組み合わせる方法を見つけようと競い合っている。
欧州最大のがん学会において免疫療法の治験結果を詳しく調べた腫瘍学者たちが思い知らされたことは、さまざまな患者グループに最適な治療法を見つけるには、さらに研究が必要だということだ。
「免疫療法の将来は、この先10年、もしくは15年かけて定義されると思う」とローザンヌ大学病院の肺がん専門家、ソランジュ・ピーターズ氏は語る。
免疫療法の成功例と、潜在的な売り上げが最大400億ドルに達しようかという市場の展望を前にしながらも、古参のがん専門家は注意を促している。
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