93年、米国を救ったクリントン「経済再生計画」の攻防
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月22日 7時12分
「変革」を掲げて大統領に当選したクリントンは、何よりもまずアメリカ経済の再生を最優先課題として着手する方針であった。
93年2月17日、クリントンは「経済再生計画」を議会で演説し、独自の経済再生案を公表する。
クリントンは、共和党政権の経済政策は「中間層・低所得者層を犠牲にして富裕層を優遇するトリクル・ダウン経済」だと批判し、その上で、①増税と歳出抑制によって94年度から5年間で財政赤字を4720億ドル削減する財政再建策、②長期公共投資による国民と企業の生産性の促進策、③2年間で320億ドルの短期的景気刺激策を実施して景気回復の呼び水とする策という3つの柱からなる経済再生案を提示した。
しかし、クリントンはいきなりつまずく。
93年補正歳出予算法案に、③にあたる短期的景気刺激策の実施に必要な大型公共投資支出などを緊急支出として盛り込んだことを共和党は強く批判していた。上院審議では民主党の重鎮ロバート・バード上院歳出委員長が強硬な姿勢で法案可決を狙ったため、共和党の執拗な議事妨害にあい、同法案の審議は予想以上に難航する。
93年4月21日、同予算法案は議会を通過し、クリントンはこれに署名したが、同法案からは景気刺激策に必要な支出の大部分が削除されてしまっていた。これはクリントンが議会との攻防で味わった最初の挫折である。
5月初旬の世論調査の結果は芳しいものではなかった。クリントンの支持率は4月22日の55%から10%も落ちて45%になった。国民はクリントンには議会を説得する手腕がなく、力不足であると判断したのである。
財政再建策――包括的予算調整法
議会は財政再建策、すなわち包括的予算調整法案の審議にも入っていた。
クリントンが示した原案では、向こう5年間での歳出削減の細目が示されていた。それは、国防支出から1120億ドル、メディケアなど福祉の義務的経費から1150億ドル、国債費から460億ドル、社会保障費から290億ドル、そのほか裁量的経費から730億ドル、合計3750億ドルを削減する内容であった。
クリントンは増税も提案している。すなわち、①個人所得税に高額所得者(年収11万5000ドル以上、25万ドル以下)のカテゴリーを新設し、ここに属する人びとの最高税率を31%から36%に引き上げる、②年収25万ドル以上の超高額所得層の個人所得税率は最高税率を31%から39・6%とする、③法人所得税の課税率を現行の34%から36%まで引き上げる。
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