スー・チー氏の全方位外交と中国の戦略
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月8日 7時0分
この時点では、「スー・チー氏の、ASEAN(東南アジア諸国連合)以外の国の最初の訪問国は日本になるだろう」と日本は期待し、「日メコン連結性イニシアティブ」など多くの経済的および人的支援を約束している。
ところが中国もまた早くから戦略的にスー・チー氏に外交攻勢をかけていた。
中国・ミャンマーの関係は複雑で、カギを握っているのはミャンマー北部(中国との国境近く)に集中している「少数民族武装勢力の扱い」と「ミャンマー国防軍」との関係である。
スー・チー氏が昨年11月の選挙に勝つには、少数民族武装勢力問題をどのように解決し、軍部を説得できるか否かが、大きな課題の一つとしてあった。中国は、そこに焦点を当てて、2015年6月にスー・チー氏の訪中を実現させたのである。少数民族武装勢力問題の解決には、中国の協力は不可欠だ。なぜなら15ある武装勢力のうちのいくつかは中国系だからである。
そのため習近平主席は、2015年6月の会談で、少数民族武装勢力問題を解決する「和平へのプロセス」を強調し、11月に行われる総選挙に関して、スー・チー氏が率いる野党・国民民主連盟に有利に働く道を示したのである。したがって圧勝したスー・チー氏側は、中国の力の大きさを重要視して、訪米よりも先に訪中を選んだのだと、中国メディアは報じている(つまり、中国の協力があったからこそ勝利できたという位置づけなのである)。
もし訪米を優先したとすれば、ASEAN地域におけるパワーバランス、あるいは南シナ海問題などで、中国との対立軸を生む。
それだけは避けたいとスー・チー氏は判断したのだと、中国側分析は続く。
なぜなら、武装勢力問題だけではなく、ミャンマーにとって中国は最大の貿易国で、今年7月末統計で、中国がミャンマーと協定を結んだ投資額の総額は254億米ドルに達し、これはミャンマーへの外資全投資額の40%に当たるだけでなく、さらに「米欧日」などによる投資額の3.5倍に達するとのこと。新華網など、多くのメディアが、この分析を伝えている。
だから最初の訪問国として中国を選んだのだと、中国側は言う。
一方、訪中を最優先すれば、アメリカや日本は「何としても、もっと有利な条件を示して、ミャンマーを惹きつけておかなければと考えるだろう」という思惑が、スーチー氏にはあったものと考えていいだろう。
気品があって美しいスー・チー氏のイメージは、フィリピンのドゥテルテ氏の場合とはかなり異なるが、しかし「日米中」を天秤に掛けたバランス外交には、類似のものがある。
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