都会の部屋は「狭い」がクール
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月15日 11時15分
建築家の黒川紀章が設計し、72年に竣工したこの集合住宅は、プレハブ式の140のカプセル(部屋)をコンクリートコアシャフトにボルトで固定する構造で、理論上はカプセルの交換も可能だ。各カプセルの床面積は10平方メートル。室内には作り付けの家具や電化製品、超ミニサイズのユニットバスがある。
ミニ自動車やミニスカートが流行し、テクノロジーの進歩が全面的に肯定されていた当時、中銀カプセルタワーは称賛された。だが今では、立派なオフィスビルに囲まれて哀れな姿をさらしている。
給湯設備が老朽化したため、建物内では数年前から温水が使えない。おしゃれな未来空間だったカプセルの多くは、今や閉鎖されたか、倉庫や事務所と化している。
マンハッタンで建設中のカーメルプレース Richard Levine-Corbis/GETTY IMAGES
独身者にはいいけれど
物珍しさもあり、民泊サービスのAirbnb(エアビーアンドビー)で貸し出されている部屋もあるが、カプセルは住居としては狭過ぎる。黒川が生んだ大量生産型の都市住宅は風変わりな建築としては愛されても、住宅市場に受け入れられる物件ではなかった。
さらに哀れなのが、モスクワのナルコムフィン・アパートメントだ。ソ連時代の建築家モイセイ・ギンズブルグとイグナティ・ミリニスが手掛け、32年に完成したこのユニット形式の集合住宅は、キッチンや洗濯室を共同で使う設計だった。
社会主義的住居の手本とされた傑作だが、住人は独立した生活を望み、思惑どおりにはいかなかった。現在はアーティストのアトリエなどとして使用されている以外は空き室ばかりで、厄介者扱いされている。
04年、ショッピングセンターのオープン式典で、当時のモスクワ市長ユーリ・ルシコフは老朽化したナルコムフィンを指してこう言ったという。「あんなゴミではなく、真新しいショッピングセンターがこの町にあるのはうれしいことだ」
【参考記事】光と優秀な人材を取り込む「松かさ」型ラボ
こうした失敗にもかかわらず、理想を抱く都市計画の専門家や建築家はミニマル住宅の普及を推し進めている。その一例が、中銀カプセルタワーと同様の発想に基づくプロジェクト「カシータ」だ。
生みの親である環境学者で起業家のジェフ・ウィルソンは、床面積約3平方メートルの金属製ゴミ収集庫を住居に改造して暮らしたことで知られる人物。カシータの住居はワインラックにボトルを入れるように、鉄鋼製のプレハブ式ユニット(面積は約30平方メートル)をフレームにはめ込む仕組みになっている。
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