未来が見えないんですーーギリシャの難民キャンプにて
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月13日 16時20分
難民のボートが今出現してもいいのだ、と俺は思った。実際にそれは日々、次々に現れた。つまり海水浴の家族の目の前に。時には見ている間に沈み、死体となって浮いて打ち寄せる姿もあったろう。見てしまった者の心に、その悲惨な体験はこびりついているに違いなかった。
数分行くと、車は右折した。
そこがカラ・テペ難民キャンプだった。
細い金網で出来たフェンスがいきなり左右にあった。車はその中央に作られた目の粗いアスファルトの坂をあがった。右にある空き地に車を止め、少しだけ緊張しているらしきアダムの後ろをついていった。
すぐに左奥にコンテナが見えた。外側に色とりどりの魚やサンゴ、タコの絵が描かれていた。前に4つの小さなベンチがあり、一部はオリーブの樹の影の中に入っており、そこに4人の人が座っていた。彼らが順番を待っているのは、コンテナの中にいる現地ギリシャの管理者に話があるからだった。それは俺たちも同じだった。
近づいていき、なんの気なしにコンテナの絵をスマホで写真に撮ろうとすると、アダムがそれを手で制した。難民の姿を撮影するわけでもないのにと思ったが、アダムは目で「頼む」と言っていた。おそらくコンテナの中の人物の機嫌を損ねるわけにいかなかったのだ。
先にマリアという熟練の秘書らしき女性が出てきて、アダムにこう言った。
「お返事遅れてごめんなさい。とても忙しいものだから」
確かにコンテナの奥からは強いアラブ訛りで口々に何かを訴える者たちの声がしていた。俺たち極東からの取材者に許可を与える暇などないだろうことは推察された。だが、それをおしてアダムは俺たちをカラ・テペ難民キャンプへ導き、取材を実現させようと力を尽くしてくれているのだとわかった。写真撮影はつまり強引な取材の開始になってしまう。そこには微妙な交渉の機微があった。
スタブロス・ミロギアニスさんという、立派なヒゲの生えたいかにも地方の偉い官吏といった感じの責任者に会えるまで、俺たちはコンテナの外で待った。白い砂利だらけの敷地にはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のコンテナ、世界の医療団のコンテナもあった。様々な援助団体が乗り入れているのだった。
しばらく待つと、がたいのいいスタブロスさんが笑顔で出て来て、厚い手のひらでみんなと握手をし、「緊急会議があってすぐに出なければなりませんが、ようこそカラ・テペへ。どうぞ取材をなさって下さい」と大きな声で言った。
この記事に関連するニュース
-
ミャンマー、マレーシア、バングラデシュ──活動地からの声
国境なき医師団 / 2024年11月27日 17時6分
-
バングラデシュ:ミャンマーから逃れたロヒンギャ難民が増加──キャンプでの支援の拡充が急務
PR TIMES / 2024年11月22日 18時15分
-
バングラデシュ:ミャンマーから逃れたロヒンギャ難民が増加──キャンプでの支援の拡充が急務
国境なき医師団 / 2024年11月22日 18時6分
-
その「傷」を治すために──パレスチナ・ヨルダン川西岸地区 イスラエル軍による暴力の中で
国境なき医師団 / 2024年11月7日 17時51分
-
【2024年12月開催】「カタログハウスの学校」からのお知らせ:作家のいとうせいこうさんと「国境なき医師団」医療スタッフによる対談を実施します!
PR TIMES / 2024年11月7日 10時15分
ランキング
-
1ウガンダで地滑り、15人死亡 113人不明、豪雨原因か
共同通信 / 2024年11月29日 8時47分
-
2トランプ新政権の閣僚候補に「爆破予告」など脅迫相次ぐ…FBI「事件を把握」と声明
読売新聞 / 2024年11月28日 18時21分
-
3「新型ミサイルでウクライナ中枢攻撃も」 プーチン氏が警告 露主導同盟の首脳会議で
産経ニュース / 2024年11月28日 21時3分
-
4ゼレンスキー氏が「戦争税」法案に署名 戦時下で初の増税へ
ロイター / 2024年11月29日 9時46分
-
5ドイツ 地下シェルターを整備 北欧「戦争に備えよ」と冊子配布 ロシア核威嚇で欧州緊張
産経ニュース / 2024年11月29日 9時3分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください