未来が見えないんですーーギリシャの難民キャンプにて
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月13日 16時20分
「今は何人くらいが来るんですか?」
「1日、5、6人になりました。忙しかった時は100人という日もあったんだけど」
「1日100人!」
「そう」
聞けば、彼女はギリシャで心理療法士として働き、学校にカウンセリングに出たりなどしていたそうだった。それがいまやMSFに参加し、自国の中に出来た難民キャンプで働いていた。やっていることは同じであるように見えて、それはずいぶんハードな変化に違いなかった。
けれど、彼女は車内に貼られた子供の絵、彼女を描いてくれた絵を見て言った。
「ここで働くのは素晴らしいことよ。もうすぐアテネに戻らなきゃならないんだけど、すぐまた来たい」
生き甲斐、という言葉をしばらく忘れていたなと俺は思った。
この絵に彼らはどれだけ励まされていることだろう
難民となったジャマールさんに話を聞く
アダムに連れられてとうとう仮設住宅エリアに足を踏み入れた。日本で見知っている仮設より頑丈なタイプのものが整然と並んでいた。しかし、実に小さな窓しかなく、電気もないという住宅は夏ともなれば暑くて中にはいられず、人々はたいていマットやクッションを外に置き、その上でくつろいでいた。
文化的仲介者のイハブ・アバシというお洒落なアラブ人がいつの間にかそばにいて、通訳をかって出てくれた。彼とアダムは少し小声で話し合い、誰にインタビューすべきかを決めた。
近くの仮設住宅に近づくのでついていくと、間に出来た狭い通路の上に日差しをやわらげる布が張ってあって、少し過ごしやすくなっていた。角の仮設の前に置いたウレタンマットの上に、中東系の長衣を着た男性がいた。イハブが話しかけると、男性は立って挨拶しようとした。非常に礼儀正しい人だった。
けれど、足もとがぐらついていた。アダムと俺は彼の肘を持ち、どうか座ってくれと言った。しかしおじさんは首を横に振った。「じゃ僕がこうして......」とマットの上に座ったのを見て、彼も腰をおろすことにしてくれた。アダムとイハブ、そして谷口さんもその場で膝を折った。
おじさんはジャマール・サラメという名前でパレスティナ人だった。母国を出たジャマールさんは、レバノン、シリア、トルコまで移動してきたのだと言った。途中で4日間を砂漠で過ごしもした。そして最終的にその年の3月24日、ゴムボートに乗ってギリシャにたどり着いた。共に国を出た家族は、今も移動途中のシリアで動けずにいるとのことだった。
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