埼玉の小さな町にダライ・ラマがやってきた理由
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月28日 11時24分
後に15人のチベット人少女たちも来日。総勢20人のチベット人少年少女が毛呂山町で勉学に励んだ。
それから半世紀。丸木氏の運営する毛呂病院は1972年に埼玉医科大学の母体となり、丸木氏は1994年に永眠する。その遺産として、チベット難民の子供たちの多くは、成人後、埼玉県各地の病院で勤務するようになった。
西蔵さんも、おなじく丸木氏のあっせんで来日したチベット人留学生の女性と結婚し、今は毛呂山町の隣にある日高市にある武蔵台病院の院長を務めている。「私がチベット人だというと、まったく気づきませんでしたと驚く患者さんまでいるほどですよ」と西蔵さんは笑った。
【参考記事】五体投地で行く2400キロ。変わらない巡礼の心、変わりゆくチベット
外国人労働者受け入れの成功例として知られていい
2016年11月、国会で外国人技能実習制度適正化法と入管法改正法が成立した。今後は外国人技能実習生の受け入れ職種として介護分野が加わるほか、介護福祉士の国家資格を取得した外国人の在留資格が認められることとなった。労働人口が減少するなか、人手不足に苦しむ介護業界で外国人労働者の受け入れを進める狙いだ。
しかし、これまでに医療現場で受け入れた外国人の定着率は高いとはいいがたい。言葉の壁や、日本社会になじめなかったりしたことが原因とされている。そうしたことを考えると、半世紀前に埼玉県の小さな町で起きたことは、もっと成功例として知られていいと感じる。
「すべては教育の力です」と西蔵さんは言う。「今の外国人医療者の招聘はケアが足りないのです。だから失敗するのです」
「2004年、私が保証人となってチベット人女性2人を日本留学に招きました。昔の私同様、彼女たちにも徹底的に勉強してもらいました。彼女たちは立派な看護師に育ちましたし、正しいやり方だったと思っています」
教育こそが人間を変える。それが丸木氏から学んだ西蔵さんの信念だ。
【参考記事】ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱
埼玉医科大学での講演の様子(撮影:筆者)
チベット人との絆が地域社会を豊かにした
前述したように、埼玉医科大学でのダライ・ラマ法王の講演は今回で3度目だ。その背景には大学の創立者である丸木博士が西蔵さんらチベット人を暖かく迎え入れた来歴があるのはいうまでもない。講演は「医学の進歩と温かい心」をテーマに行われ、仏教の教えや科学者との対話などの豊富な知識と経験、さらにウィットに富んだジョークで会場をわかしていた。
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