ジャニーズと戦後日本のメディア・家族(後編)
ニューズウィーク日本版 / 2016年12月29日 11時3分
学生であり、芸能人でもあるような二面性は、プロに徹していないとの批判を呼んだ(和泉一九七六:五二)。ジャニー喜多川自身も、彼らの公演は「学芸会みたいだと言われた」と述べているが、それはテレビ時代には必ずしも欠点とはならなかった。〈ジャニーズ〉にインタビューした作家の平岩弓枝は、彼らはなまじっか中流の家庭に育っているために芸能人としての必死さがなく、その人気は「素人っぽいところにある」と指摘した(平岩弓枝・ジャニーズ「若さの魅力ジャニーズ」『マドモアゼル』一九六五年一一月)。
ジャニー喜多川は、学生らしいアマチュア性を前面に打ち出し、既存の芸能界の常識を打ち破り、テレビ時代の新勢力を築こうとした。このような学生像は、たとえば十年ほど前の「太陽族」の学生像とも、安保闘争で話題をさらった唐牛健太郎のような学生像とも、根本的に異なっていた。「未熟さ」を上演していくうえで、ジャニー喜多川がこだわったのは「少年らしさ」であった。
〈ジャニーズ〉の後輩フォーリーブスの江木俊夫によれば、ジャニー喜多川は、素朴な感性をもち、ひたむきに夢を追いかけるような少年を採用の基準とした。ジャニー喜多川は、その子どもの顔つきを見ただけで「星の王子さま」のようなアイドルとしての資質の有無を見抜いたという。そのため、ジャニー喜多川自身も、どんなときも「子供心をくずさない気持ち」で、少年たちに接していたし、自宅のレッスン場には「大人の世界の空気を感じさせるようなもの」はいっさいなかったという(江木・小菅一九九七:一九‐二一、六八)。「ジャニーズ・ジュニア」という仕組みは、このような「未熟」で「少年らしい」アイドルたちが絶えず送り出される次世代育成・再生産システムとして機能しており、ジャニーズ事務所の核心だったといえる。ジャニーズ・ジュニアの結成は早く、〈ジャニーズ〉のバック・バンドとしてすでに活動していた(図2 ※アステイオン本誌には掲載)。
ジャニーズ事務所のアイドルたちが、子どもじみた「未熟さ」を演じて親しみやすいキャラクターを作り上げていったのは、とりもなおさず、テレビを視聴する近代家族を意識してのことであった。〈ジャニーズ〉は『マーガレット』のような雑誌にグラビアが掲載されるなどして少女ファンを取り込んではいたが、ジャニー喜多川は、そのうえさらに、ファンの両親にも好感をもたれる清潔なアイドル、「コンサートに家族連れで行けるようなアイドル」となることを求めた。それは、家族を味方につければ「ファンが連綿と引き継がれていく、というもくろみ」があってのことだった(江木・小菅一九九七:七三)。実際、〈ジャニーズ〉に寄せられたファン・レターの半分は大人たちからのものだったという(中谷一九八九:一三〇)。楽曲も家族向けを意識して作られていたと思われ、なかには「ホーム・ソング調」と評された楽曲もあった(渡辺音楽出版株式会社『黄金の椅子1――ジャニーズ・ヒット・アルバム』国際音楽出版社、発行年不明)。
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