アレッポ攻防戦後のシリア紛争
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月5日 15時0分
○「反体制派」の非戦闘員:女性や高齢者、子供や戦闘員の家族がこの範疇に入ると思われる。女性や高齢者、未成年者でも確信をもって「反体制派」を支持したり、その活動を担ったりする人々も明らかに存在する。そのような人々も、「反体制派」として退去することとなるだろう。政府側による非戦闘員に対する略奪・迫害・拷問などに懸念や非難を表明した諸国や機関は多かったが、彼らを自ら庇護しようとした国も機関も一つもなかった。ただし、戦闘期間中、SNS上で「現地の悲劇的な状況」を流ちょうな英語で発信した幼女は早々にトルコに脱出し、同国のエルドアン大統領との面会を果たした。
○一般の民間人:自宅などの不動産、或いは家業にまつわる生産手段を守るため、他の地域に脱出するための資源も頼る先もないなどの理由で残らざるを得なかった一般人の中にも、退去を選択した者がいるだろう。政府が制圧した以上、そこに住む人々は兵役、納税、公務員・学生としての職業的身分、公共料金の支払いなどなど、政府と法的立場を調整する必要が生じる。とりわけ、軍や警察の部隊からの逃亡者や徴兵忌避者は、法的立場を調整した結果戦闘に駆り出されることよりも、退去を選択する誘因が強くなる。
【参考記事】「アレッポの惨劇」を招いた欧米の重い罪
政府側は退去の条件を満たさない戦闘員の監視や、民間人の法的立場の調整などの措置のため退去する者の身柄を検めようとした。こうした行動を、「反体制派」側は逮捕・拷問・処刑が行われていると非難し、退去が度々滞った。にもかかわらず、退去そのものは22日までに終了したため、直前に国連安保理で採択された監視団の派遣や人道援助の搬入についての決議には主な対象者・地域がなくなってしまった。
誰の何が失敗したのか?
政府軍がアレッポを完全に制圧し、「反体制派」が短期間でこれを覆す見込みがない状況で、シリア紛争の終結に向けて描かれていた様々な筋書きのうちの一つが完全に潰えた。この筋書きは、「反体制派」がアレッポに侵攻した2012年ごろにアメリカやトルコが描いていた構想に近い筋書きである。具体的には、(1)人口も多く、政治・経済・社会的影響力も強いアレッポを「反体制派」が制圧する→(2)そこに「反体制派」が「シリア人民を代表する正統な政体(らしきもの)」を樹立する→(3)諸外国はその「政体(らしきもの)」を承認し、その要請に応じて飛行禁止区域の設定やシリア政府軍への攻撃を行う→(4)その「政体(らしきもの)」を名目上の旗頭として、シリア政府を軍事的に打倒する、との筋書きである。これは、2011年にリビアでカッザーフィー政権を打倒した際の事例に近いものである。「政体(らしきもの)」を樹立するためには、ある程度の「国民(らしきもの)」がついてこないと説得力がないため、そのよりどころとしてのアレッポの価値はイドリブ、ラッカ、ダイル・ザウル、パルミラのような、地方都市規模の都市ではとても代替できない。
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