アレッポ攻防戦後のシリア紛争
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月5日 15時0分
その後、「反体制派」には政治的にも軍事的にも諸外国の期待に応える能力がないことが判明した、先行事例であるリビアでカッザーフィー政権打倒後の政治過程が破綻した、などの事情で上記の筋書きの実現性は極めて低くなった。それにもかかわらず、「反体制派」がアレッポ市の一角を占拠し続ける間、この筋書きは生き延び続けた。2016年8月以降トルコ軍が侵攻・占領した地域に設定しようとしている「安全地帯」や、今も時折アメリカの政治家が表明する「安全地帯」設置構想は、「正統な政体(らしきもの)」の核を欠いた構想へと失墜することとなろう。アレッポ攻防戦の決着で直ちに紛争が終わるわけではないが、当初アメリカやそれに与する諸国が構想したシリア紛争終結の筋書きの一つが破綻したことは否定しようがない。
2017年の展望
今後の政府軍の作戦の目標は、当座はダマスカス、アレッポ両市の近郊の確保、人口密集地に孤立して点在する「反体制派」が占拠する地域の解放になる可能性が高い。「反体制派」の根拠地であるイドリブ県や、12月に「イスラーム国」に再度占拠されたパルミラの奪還は容易ではない。なぜなら、アレッポでの戦局如何を問わず、「反体制派」と「イスラーム国」が政府軍を挟撃する配置は変わらないからである。政府軍としては、身近な不安定要素を除去し、敵方によって挟撃されているという不利な配置でも戦果を上げられるだけの備えが必要である。
一方、「反体制派」が局面を打開するためには、支援国による大幅な援助増が必須であろう。ただし、直接軍事介入したり援助を大幅に増やしたりする意思と能力のある国は見当たらないし、「反体制派」を支援する諸国の間でもシリア紛争を通じて実現したい利益や目標が各々バラバラで、支援そのものの能率もあまり良くない。軍事的にだけでなく政治・外交・経済面でも根本的な発想の転換がなければ、「反体制派」への支援継続は紛争をいたずらに長期化させ、助けるはずのシリア人民の苦しみを増幅させる以外の結果をもたらさない。また、トルコがロシアとの協調を進める過程で、「反体制派」に対しこれまでは積極的に支援してきた「ヌスラ戦線」との絶縁を勧告した模様である。従来から「反体制派」は諸派の間の権益争いなどの内紛を繰り返し、戦機を逸してきた。ここでトルコがイスラーム過激派との関係を清算するようなことになると、それを契機に「反体制派」間での抗争・自滅が進む可能性も予想される。
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