アレッポ攻防戦後のシリア紛争
ニューズウィーク日本版 / 2017年1月5日 15時0分
「イスラーム国」に目を移せば、その衰退は必然的である。ただし、衰退の原因は連合国が行っている爆撃ではない。「イスラーム国」自身が占拠した地域の住民に対し搾取と虐待を繰り返すだけの存在だということが明らかになるとともに、2015年以来「イスラーム国」にとって資源の供給地だったEU諸国、チュニジア、アラビア半島諸国でも攻撃を起こすようになり、資源の調達先で取り締まりが強化されたからである。2016年からは「イスラーム国」自身がEU諸国やトルコでの攻撃扇動を強めており、これは大局的に見れば活動に必要な資源調達の道を断つ自殺行為ともいえる。
現在「イスラーム国」の脅威が増しているように感じられるのは、イラクやシリアの外での資源調達や、プロパガンダを抑える取り組みが徹底されていないところがあるからだ。この点についてもっと実証的・実践的な調査や分析が必要であり、今や「イスラームフォビア」や「ムスリムの怒り」、「格差や差別」を観念的に語るだけでは「イスラーム国」やイスラーム過激派について何か説明したことにはなっていない。
2017年はイスラーム過激派による資源調達やプロパガンダの実態、それへの対策に焦点を当てた調査・研究・報道が主流にならないと、「専門家」や「報道機関」の存在意義が問われる年になるだろう。
[プロフィール]
髙岡豊
公益財団法人中東調査会 上席研究員
新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。2014年5月より現職。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店など。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
髙岡豊(公益財団法人中東調査会 上席研究員)
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